ルドルフ・フィルクスニー

ルドルフ・フィルクスニー

ルドルフ・フィルクスニー（Rudolf Firkušný, 1912年2月11日 - 1994年7月19日）は、20世紀を代表するチェコ出身のピアニスト、作曲家です。特に、アントニン・ドヴォルザークやレオシュ・ヤナーチェクといったチェコ音楽のレパートリーにおいて、その権威として国際的に高く評価されました。日本では「フィルクスニー」の名で広く知られていますが、母国語であるチェコ語では「フィルクシュニー」に近い発音となります。

生涯

1912年2月11日、モラヴィア地方のブルノから東へ約60kmに位置するナパイェドラという町に生を受けました。幼い頃からピアノに対して並外れた才能を示し、わずか5歳で知人の紹介を通じて作曲家レオシュ・ヤナーチェクと出会う機会を得ました。この時、ヤナーチェクの前でドヴォルザークの『スラヴ舞曲』を演奏すると、ヤナーチェクは楽譜にない独自の解釈で弾くフィルクスニーに驚き、「テンポが違う！」と叫んで自ら実演して見せたと言われています。さらに、ヤナーチェクが弾いたベートーヴェンの『月光ソナタ』終楽章の演奏に深く感銘を受けたフィルクスニーは、母親にヤナーチェクの下で音楽を学びたいと強く懇願しました。これがきっかけとなり、彼はヤナーチェクからピアノと作曲の指導を受けることになります。フィルクスニーは3歳で父を亡くしており、一方のヤナーチェクも幼い息子を失っていたことから、二人の間には互いに親子の情を通わせるような特別な絆があったと伝えられています。

8歳でブルノ音楽院に学び始め、1922年には10歳にしてプラハでピアニストとして公式なデビューを果たしました。その後、プラハ音楽院に転校し、作曲をルドルフ・カレルに、ピアノをヴィレーム・クルツに師事しました。

1933年にロンドンでのデビューを飾り、これ以降、国際的な舞台での演奏活動を精力的に展開します。しかし、1938年にナチス・ドイツがチェコを占領下に置くと、その傀儡政府から親善使節への就任を求められます。これを断固として拒否したため、フィルクスニーは国外追放処分を受けることとなりました。彼はまずパリに避難し、続いてロンドンにあったチェコの亡命政府の使節としてアメリカ合衆国へ渡り、後にアメリカ市民権を取得しました。アメリカでは、ジュリアード音楽院で教鞭をとる傍ら、幅広いレパートリーで演奏活動を続けました。

1959年にオーストラリアに招かれて以降は、再び国際的な演奏活動に本格的に復帰し、世界各地を巡演しました。日本には1978年に初めて来日して以来、繰り返し訪れ、多くのコンサートで日本の聴衆を魅了しました。祖国チェコに対しては、ソ連の影響下にあった社会主義体制が崩壊し、民主化が実現するまでは、公式な演奏活動は行わないという強い意志を持っていました。それでも故国を訪れることは少なくなく、50代になってから結婚した妻は、その際に故郷の村で出会った民俗舞踏団のメンバーだったといいます。

1994年7月19日、彼は癌によりニューヨーク州スターツバーグの自宅でその生涯を閉じました。

演奏活動

フィルクスニーのピアノ演奏は、その温厚で誠実な人柄が映し出されたかのように、過度な技巧をひけらかすことなく、穏やかで自然な趣きを持っていました。彼は非常に滋味深く、聴き手に寄り添うような表現を得意とし、数多くの録音が残されており、その豊かな音楽性に触れることができます。また、彼は優れた室内楽奏者としても知られ、ヴァイオリニストやチェリストとの共演による多数の録音を残しています。

彼のレパートリーは多岐にわたりますが、とりわけ直接師事したヤナーチェクの作品、そして亡命中に苦労を共にしたボフスラフ・マルティヌーの作品の演奏は、他の追随を許さない規範的なものとされています。特にマルティヌーからは、難曲として知られる『幻想曲とトッカータ』を献呈され、フィルクスニーはこの作品の世界的な普及に尽力しました。ドヴォルザークやスメタナといったチェコ国民楽派の主要作品で高い評価を得ていたことは言うまでもなく、必ずしも演奏機会が多くないゲオルク・ベンダやドゥシェックといったチェコ古典派の作品にも積極的に取り組みました。これらの作品におけるフレーズ全体にわたる独自のテンポ・ルバートを多用する個性的な解釈は、日本への度重なる来日公演でも聴衆に深い感銘を与えました。

作曲家として

ピアニストとしての輝かしい業績に比べると、作曲家としてのフィルクスニーはあまり知られていませんが、ピアノ協奏曲、弦楽四重奏曲、ピアノ曲、歌曲などを作曲しています。しかし、その存在感はやはり卓越したピアニストとして歴史に刻まれています。

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