ルナ (ロケット)

ルナ8K72

ソビエト連邦がその黎明期の宇宙開発において、月探査計画「ルナ計画」のために開発・運用したロケットの一つに、ルナ8K72があります。このロケットは、1958年9月23日から1960年4月16日という比較的短期間に集中的に使用されました。合計9機の月探査機を地球軌道から月を目指す軌道へと送り出す役割を担いました。

ルナ8K72は、ソ連の初期宇宙開発を支えた信頼性の高い弾道ミサイル、R-7を基礎としています。月の重力圏に到達し、さらには目標とする軌道に乗せるためには、地球周回軌道に乗せる以上の速度が必要でした。このため、基本的なR-7の構成に加え、さらに強力な推進力を提供する上段「ブロックE」が追加されました。これは、当時のソ連が保有していた他の宇宙ロケットにも見られる、既存のミサイル技術を発展させる形での宇宙開発手法の典型と言えます。

しかし、その開発と運用初期は決して順調ではありませんでした。ルナ8K72にとって最初の打ち上げとなったのは、1958年9月23日に試みられた「ルナ1958A」探査機の打ち上げでした。しかし、悲劇的なことに、ロケットは離昇からわずか92秒後に爆発を起こし、ミッションは失敗に終わります。続く「ルナ1958B」の打ち上げも、発射から104秒後に爆発。さらに3度目の「ルナ1958C」も、245秒後に爆発しました。初期に打ち上げられた3機の探査機は、いずれも地球周回軌道にすら到達することなく失われ、連続して失敗を喫するという厳しい幕開けとなりました。

この困難な状況を乗り越え、ルナ8K72が初めて成功裏に打ち上げを行ったのは、4度目の挑戦となった1959年1月2日のことでした。この時搭載されていたのは、ソ連にとって初めて月への到達を目指す「ルナ1号」探査機です。ルナ1号は当初、月面に衝突させることを目標としていましたが、残念ながら軌道計算にわずかな誤差が生じました。その結果、探査機は月面に衝突することなく、1月4日に月面から約5995kmという比較的近い距離を通過しました。その後、月の重力による軌道修正を受けながらも、ルナ1号は月の引力圏を脱出し、人類史上初めて太陽の周回軌道に入った人工物体となりました。月面への到達は叶いませんでしたが、初の月近傍通過と太陽周回軌道到達という歴史的な偉業を達成したのです。

ルナ1号の成功に続き、ルナ8K72はさらに二つの極めて重要なミッションを成功に導きました。1959年9月12日に打ち上げられた「ルナ2号」は、ついに月面への到達を達成しました。これは、人類が製造した物体が初めて地球以外の天体に到達した瞬間であり、ルナ2号は月面衝突に成功した史上初の探査機となりました。そして、同年10月4日には「ルナ3号」が打ち上げられます。ルナ3号は月の裏側を周回する軌道に入り、人類史上初めて月の裏側の鮮明な画像を地球に送信することに成功しました。それまで観測が不可能だった月の裏側の未知の姿が明らかになったことは、月探査におけるブレークスルーであり、世界に大きな衝撃を与えました。

ルナ1号、2号、3号による連続した成功は、ソ連の初期月探査計画におけるルナ8K72の貢献が如何に大きかったかを物語っています。しかし、ルナ3号による輝かしい成果をもって、ルナ8K72はその主要な役割を終えることになります。ルナ計画におけるその後のミッション、具体的にはルナ4号以降の探査機の打ち上げには、ルナ8K72ではなく、より性能が向上し、後のソ連の宇宙開発を支えることになる「モルニヤロケット」が後継機として使用されるようになりました。短期間の運用ではありましたが、ルナ8K72は初期の連続失敗を乗り越え、人類初の月面到達や月の裏側撮影といった画期的な成果を達成し、月探査の歴史にその名を刻んだ重要なロケットです。

参考文献

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外部リンク

Луна (Роскосмос)（ロシア語） - これは一般的なルナ計画に関する情報源であり、ルナ8K72単独の情報に特化しているわけではありません。

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