ルナ3号

ルナ3号：月に隠された裏側の初撮影

ルナ3号（ロシア語: Луна-3）は、かつてソビエト連邦が開発・運用した無人の月探査機です。1959年10月4日に宇宙へと旅立ち、世界で初めて月の裏側を撮影するという、宇宙開発史上の画期的な偉業を達成しました。

探査機の構造

ルナ3号の機体は、両端が半球状になった円筒形をしており、全長は約1.3メートル、円筒部分の直径は約0.9メートル、最大径は約1.3メートルでした。質量は278.5キログラムと、先行するルナ1号や2号に比べて軽量に設計されていました。機体内部は0.23気圧に保たれ、搭載された機器が安定した環境で動作するように工夫されていました。また、内部の温度が25℃を超えると、機体カバーの一部が開いて放熱板が露出する仕組みにより、自動で温度を調整する機能も備えていました。電力は、機体の外周に貼り付けられた太陽電池パネルによって供給されました。

ルナ3号の最大の任務は月の裏側を撮影することであり、そのための中心的な観測機器として「イェニセイ-2」と呼ばれる特別な撮影システムが搭載されていました。この他に、宇宙空間における流星物質や宇宙線の検出器も積んでいました。機体の姿勢制御には、機体を回転させて安定させるスピン制御と、ガスジェットを用いた制御方式を切り替えることが可能でした。ただし、軌道を細かく調整するためのロケットエンジンは搭載されていませんでした。

撮影システム「イェニセイ-2」

「イェニセイ-2」システムは、フィルムカメラ、自動現像装置、そしてスキャナの三つの要素から成り立っていました。カメラには焦点距離200mm、F値5.6のレンズと、焦点距離500mm、F値9.5のレンズの2種類が用意されていました。200mmレンズは月全体を捉える広角撮影に適しており、500mmレンズは特定地域の詳細なクローズアップ撮影に用いられました。カメラ自体は機体に固定されていたため、撮影したい方向へ機体全体を向ける必要がありました。撮影は自動で行われ、機体のセンサーが月の光を感知すると、上端にあるカメラカバーが開き、シャッターが切られる仕組みでした。

撮影された画像は、40フレーム分の35mmフィルムに記録されました。一連の撮影が終了すると、フィルムは自動現像装置へと送られ、現像処理が施されました。現像済みのフィルムは、地球からの指令を受けてスキャナによって読み取られ、その画像データは無線で地球へ電送されました。

困難を伴う飛行ミッション

1959年10月4日、ルナ3号はバイコヌール宇宙基地からルナ8K72ロケットによって打ち上げられ、月へ直行する軌道に乗せられました。しかし、打ち上げ直後から機体からの信号強度が予定よりも弱いこと、そして機体内部が異常な高温になっていることが判明しました。温度上昇を抑えるため、重要性の低い搭載機器の電源が切られましたが、送信の不調は改善されませんでした。

地球から約6万〜7万キロメートルの距離に達したところで、機体の姿勢制御方式はスピン制御からガスジェットを用いた制御へと切り替えられました。

10月6日には、ルナ3号は月の南極付近に最も接近し、月表面からの距離は約6200キロメートルとなりました。この時点ではまだ自動撮影は開始されず、ルナ3号は月の重力に引かれて軌道を変更しながら飛行を続けました。

翌日の10月7日、機体のセンサーが月の光を捉え、月の裏側からの距離が約6万3500キロメートルの地点で自動撮影システムが作動しました。ルナ3号はその後約40分間にわたり、合計29枚の写真を撮影しました。撮影を終えた探査機は、姿勢制御を再びスピン制御に戻し、月を半周して地球へ再び接近する軌道に乗りました。

地球へ帰還する軌道上で、ルナ3号は撮影データの送信を開始しました。送信機の不調にもかかわらず、10月18日までに17枚分の不鮮明ながらも貴重な画像データを地球に届けることに成功しました。

計画の終焉と歴史的成果

10月22日、地球とルナ3号との間で通信が途絶え、ミッションは終了しました。軌道制御を失ったルナ3号は、その後しばらく地球近傍を周回した後、1960年3月から4月頃に地球の大気圏に突入し、燃え尽きたと考えられています（ただし、1962年以降という説もあります）。

月は常に同じ面を地球に向けているため（これを「潮汐固定」といいます）、地上からの観測では月の裏側を見ることは物理的に不可能です。そのため、月の裏側の様子は長年にわたり、人類にとって未知の領域でした。ルナ3号の最大の功績は、まさにこの「見えない部分」へと飛行し、世界で初めてその姿を写真に収めることに成功した点にあります。

地球で受信された画像は非常に不鮮明でしたが、解析の結果、月の裏側には表側に見られるような広大な暗い「月の海」がほとんど存在しないことが明らかになりました。画像から判別できたいくつかの地形には名称が与えられ、モスクワの海など、ソビエト連邦に関連する地名も誕生しました。ただし、不鮮明な画像を無理に読み取ったため、ソビエト山脈のように、その後の詳細な探査で誤りであったと判明した地形名も含まれていました。

ルナ3号のミッションは技術的な困難も伴いましたが、月の裏側という未知の世界を初めて人類に示し、その後の月探査や宇宙開発の方向性に大きな影響を与えた歴史的な偉業でした。

関連項目

* ルナ計画

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