ルネ・ド・シャロン

ルネ・ド・シャロン（René de Châlon, 1519年 2月5日生 - 1544年 7月15日没）は、16世紀半ばのヨーロッパに生きた貴族であり、オランジュ公国を統治するとともに、ネーデルラントにおけるホラント、ゼーラント、ユトレヒト、そしてヘルダーラントといった主要な州の総督を務めました。ナッサウ家の一員として生まれた彼ですが、母方の家系からシャロン家の名跡とオランジュ公位を継承したことから、ナッサウ家出身者として初めてオラニエ公の称号を帯びた人物として歴史に名を刻んでいます。彼の存在は、後のオランダ独立指導者であり、現代オランダ王室につながるオラニエ＝ナッサウ家の祖とされるウィレム1世・オラニエ公の歴史とも深く関わっています。

生涯と家系の継承

ルネは、ブレダの領主であったヘンドリック3世・ファン・ナッサウ＝ブレダと、その二番目の妻クロード・ド・シャロンの間の一人息子としてこの世に生を受けました。ドイツ語での名はレナートゥスといいます。母方の叔父にあたるフィリベール・ド・シャロンは、シャロン家最後のオランジュ公でしたが、1530年に後継者を残さずに死去しました。このため、ルネは母方のシャロン家が代々領有してきたオランジュ公領や、フランシュ＝コンテ地方に広がる所領を相続することになりました。ただし、その条件として、シャロン家の家名と紋章を使用することが定められていました。さらに彼は、父の死後にはナッサウ家がライン川左岸やネーデルラントに保有していた広大な所領も引き継ぎ、これにより、ルネは当時のネーデルラント地域において最も有力な貴族の一人となったのです。

結婚と跡継ぎの問題

1540年、ルネは現在のフランス、ロレーヌ地方にあるバル＝ル＝デュックで、ロレーヌ公アントワーヌの娘アンヌと結婚しました。夫妻の間には一人娘マリーが生まれましたが、残念ながら生後わずか3週間で亡くなってしまい、その後、二人の間に新たな子供が授かることはありませんでした。これは、ルネの死後における相続問題に大きな影響を与えることになります。

カール5世への奉仕と若き死

シャロン家は伝統的にブルゴーニュ公に仕える家柄であり、オランジュ公領も神聖ローマ帝国の支配下にありました。このため、オランジュ公となったルネもまた、ブルゴーニュ公を兼ねる神聖ローマ皇帝カール5世に忠誠を誓い、その廷臣として、また軍人として活動しました。彼は皇帝軍の一員として、第四次イタリア戦争などの戦役に参加しています。しかし、彼の短い生涯は突如として終わりを迎えます。それは1544年7月、カール5世がフランス王フランソワ1世に対抗して行われたサン＝ディジエの包囲戦の最中でした。この戦闘において、ルネはわずか25歳で戦死しました。当時の記録には、サン＝ディジエの城塞を守っていたイタリアの彫刻家・金細工師であるベンヴェヌート・チェッリーニが、即席で鉄屑などを砲に詰めて放った砲撃がルネに命中し、命を奪ったと伝えられています。

遺産とウィレム1世への継承

子がいなかったルネは、生前、自身の死後の相続について考慮する必要がありました。神聖ローマ皇帝カール5世は、万一ルネに何かあった場合に、広大なオランジュ公領やネーデルラントの所領が、当時プロテスタントであったルネの父方の叔父、ナッサウ＝ディレンブルク伯ヴィルヘルムに直接渡ることを望んでいませんでした。皇帝は、ヴィルヘルムの息子であれば、カトリックへの改宗も比較的容易であろうと考えたようです。このような皇帝の意向もあり、ルネは自身の相続人として、叔父ヴィルヘルムの長男であるヴィルヘルム、後のオラニエ公ウィレム1世を指名していました。ルネがサン＝ディジエで予期せぬ死を遂げたことにより、この取り決めが現実となりました。ルネが有していたオランジュ公領、ネーデルラントの所領、そしてシャロン家の家名と紋章は、当時まだ11歳であった従弟のウィレムに全て引き継がれることになったのです。

歴史的意義

ルネ・ド・シャロンの短いながらも波乱に富んだ生涯、そして特に彼の死とその後の相続は、オラニエ家とナッサウ家の歴史が融合し、新たな王朝であるオラニエ＝ナッサウ家が形成される上で極めて重要な出来事でした。彼の遺産を受け継いだウィレムは、やがてネーデルラント独立戦争の指導者となり、「沈黙公」として歴史に名を残します。このように、ルネ・ド・シャロンは、直接オランダ王室の血統につながる子孫を残すことはありませんでしたが、その存在と死が、現代のオランダ王家につながるオラニエ＝ナッサウ家の基礎が築かれる上で、決定的な役割を果たしたと言えるでしょう。

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