ルノー・エクスプレス

ルノー エクスプレス

フランスの自動車メーカー、ルノーが手掛ける小型商用バン、それが「エクスプレス」です。この車名は、ルノーの小型商用車ラインナップにおいて、二つの異なる時代に登場したモデルに冠されています。初代は1980年代後半に生まれ、ルノーの定番商用車として長く活躍しました。そして2021年には、新たな役割を担う小型商用車として、その名前が復活しました。

初代 ルノー エクスプレス（1985年 - 2000年）

初代エクスプレスが登場したのは1985年11月。その誕生には、当時の小型商用車市場における競争環境が大きく影響しています。1984年にライバルであるシトロエンが発表したC15は、アカディアンに代わる新型車として注目を集め、特にディーゼルエンジン搭載モデルは同セグメントでは初の試みであり、市場に新たな流れを生み出しました。これに対抗するため、ルノーはそれまで計画されていた新型シティカーや、当時の主力車種であったシュペールサンクの商用仕様に関するプロジェクトを改めて検討せざるを得なくなりました。

エクスプレスは、このルノー・シュペール5を基盤として開発されました。特に、先代にあたるルノー4フルゴネットの後継として、荷室を拡大した小型貨物車の役割を担いました。生産はフランス本国のMCA工場の他、スペインや遠く台湾でも行われました。

発売当初、エクスプレスにはディーゼルエンジンを含む合計3種類のエンジンが搭載されました。ガソリンエンジンは、信頼性の高いクレオン・フォンテ製の956cc（C1C型）と1,108cc（C1E型）の2種類。ディーゼルは、ルノー製の1,595cc（F8M-736型）が設定されました。さらに1986年には、1,397ccで60馬力を発生する新型クレオン・フォンテエンジンも加わっています。

ボディタイプも多様でした。最も基本的な有蓋車の板金仕様（2名乗り）に加え、側面にガラス窓を備えたガラス仕様（2名乗り）、そして5名乗車可能なエステート仕様（同じくガラス窓付き）が用意されました。さらに、荷台が開放されたピックアップトラック仕様も存在し、幅広いニーズに対応しました。

その外観上の最大の特徴は、ベースとなったシュペール5の乗員スペースの後部に、大きな箱状の荷室を接合したような「フルゴネット」スタイルです。特に、前席部分以降のキャビンのみがハイルーフとなっている独特の形状は、荷室容量を確保しつつ、コンパクトな車体サイズに収めるための工夫でした。このスタイルは、遠く離れた日本の自動車メーカー、例えばスズキのアルトハッスルや日産のAD MAXといった軽商用車にも影響を与えたと言われています。

初代エクスプレスは、販売される地域によって異なる名称で親しまれました。フランスや多くの市場では「エクスプレス」として知られましたが、一部の市場では「ラピッド（Rapid）」、ドイツやイギリスでは「エクストラ（Extra）」という名前で販売されていました。

約15年間の生産期間を経て、初代エクスプレスは2000年にその役目を終えました。その後継モデルとしては、カングーの商用仕様であるカングーエクスプレスが登場しました。

2代目 ルノー エクスプレス（2021年 -）

初代の生産終了から20年以上を経た2021年、ルノーは再び「エクスプレス」の名を冠した小型商用車を発表し、この名称が復活しました。2代目エクスプレスは、ルノーの既存商用車ラインナップであるカングーよりも手頃な価格帯で、かつ一回り小さなモデルとして位置づけられています。また、このモデルは、ルノー傘下のダチアブランドで販売されていた商用車「ドッカー」が2020年に生産終了した後の後継としての役割も担っています（ダチアブランドは今後、商用車を設定しない方針とされています）。

2代目エクスプレスの特徴の一つは、スライドドア付近のセンターピラーを廃止した設計により、サイドからの積載や乗降のアクセス性を向上させている点です。

生産体制も初代とは異なります。初代がフランスのMCA工場などで製造されていたのに対し、2代目はモロッコにあるルノー日産タンジェ工場にて生産が行われています。

このように、ルノー エクスプレスは時代の変化と共にその姿を変えながらも、ルノーの小型商用車セグメントにおいて重要な役割を担い続けています。

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