ルノー・ヴェルサティス

ヴェルサティス (Vel Satis)

ヴェルサティスは、フランスの自動車メーカーであるルノーが2001年から2009年にかけて製造・販売していた大型高級自動車です。

概要と位置づけ

ヴェルサティスは、ルノーの最上位車種であったサフランの後継モデルとして開発され、欧州市場におけるEセグメントに投入されました。従来のセダンとは一線を画す、独特のボディスタイルと居住空間を重視した設計が特徴です。このモデルには、ルノーが当時のフラッグシップとして掲げた、快適性、安全性、そして個性を追求する姿勢が色濃く反映されていました。

特徴

安全性

ヴェルサティスは、その卓越した安全性が高く評価されました。特に、欧州で最も信頼されている自動車衝突安全テストであるユーロNCAPにおいて、最高評価である5つ星を獲得しています。これは、ルノーがこのモデルに高いレベルの衝突安全設計を施していたことの証であり、乗員の保護性能において当時のトップクラスであることを示していました。

エンジンラインナップ

搭載されたエンジンは多岐にわたり、顧客のニーズに応じた選択肢が提供されました。ガソリンエンジンとしては、日産自動車から供給を受けた強力な3.5リッターV型6気筒エンジン（最高出力245PS、最大トルク33.6kgm）に加え、ルノー製の2.0リッター直列4気筒ターボエンジン（最高出力165PS、最大トルク26.0kgm）が設定されました。ディーゼルエンジンについては、いすゞ自動車製の3.0リッターV型6気筒ターボエンジン（最高出力180PS、最大トルク36.4kgm）と、ルノー製の2.2リッター直列4気筒ターボエンジン（最高出力150PS、最大トルク33.3kgm）が用意されており、特にディーゼルは当時の欧州市場での需要に応えるものでした。

デザイン

ヴェルサティスの外観デザインは、保守的なセダンが多いEセグメントにおいて非常に個性的でした。背の高いボディと短めのノーズ、流麗ながらも独特なプロポーションは、賛否両論を巻き起こしましたが、ルノーが目指した「移動するラウンジ」のような居住空間の確保に貢献しました。内装も、質感の高い素材と先進的なデザインが用いられ、快適でゆったりとした空間が演出されていました。

生産と販売の経緯

2001年の発売後、ヴェルサティスは当初期待されたほど販売台数を伸ばすことができませんでした。個性的なデザインが受け入れられにくかったことや、ライバルが多い激戦区であるEセグメントでの競争力の問題などが要因として挙げられます。

販売の不振を受け、2005年4月にはマイナーチェンジを実施しました。この改良では、主にフロントマスクを中心に意匠変更が施され、それまで多用されていたクロームパーツの使用が抑えられるなど、より落ち着いた雰囲気に改められました。

しかし、販売状況が大きく改善することはなく、ルノーは2009年8月27日をもってヴェルサティスの生産を終了しました。最終的な総生産台数は62,201台に留まり、フラッグシップモデルとしては短命な一代限りのモデルとなりました。

後継モデルとEセグメント戦略

ヴェルサティスの生産終了後、ルノーはすぐに明確な後継モデルを投入しませんでした。傘下のルノーサムスン自動車と協力して次期フラッグシップの方向性を探っていましたが、2009年には後継車種の開発を断念することを発表し、ルノーブランドとしては一時的にEセグメントから撤退する形となりました。

しかし、その後の戦略変更により、2010年6月にはルノーサムスンが製造する3代目SM5をベースとした「ラティテュード」が発表されました。このラティテュードが、結果的にヴェルサティスの事実上の後継モデルとしての役割を担うことになります。

日本市場での状況

ヴェルサティスは、ルノーの日本法人であるルノー・ジャポンによって正規輸入されることはありませんでした。これは、ルノーと提携関係にある日産自動車の車種（例えばティアナなど）と販売上で競合する可能性があったことなどが理由とされています。

そのため、日本国内では極めて希少な存在です。わずかに数台が並行輸入業者を通じて持ち込まれたほか、ディーゼルエンジン供給元であったいすゞ自動車がサンプルとして輸入した個体が存在するのみで、一般的に目にすることはほとんどありませんでした。

外部リンク

* ヴェルサティスのグローバルサイト（英語）

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