ルバシカ

ルバシカ：伝統と現代が交差するロシアの民族衣装

ルバシカ（露: рубашка, rubashka）は、ロシアの民族衣装の一つで、特に日本ではブラウス状の上衣を指す言葉として知られています。日本では「ルバーシカ」や「ルバシュカ」とも呼ばれ、ゆったりとしたシルエットや詰襟、前開きのデザイン、刺繍が施された袖口などが特徴的です。このような特徴は、ルバシカが農民の服装から発展した背景を反映しています。

元々、ルバシカは「ルバーハ」と呼ばれ、ブラウスやスモック風のプルオーバータイプの上衣を指しました。19世紀末から20世紀初頭には、襟や袖口に装飾が加わり、愛称の「ルバーハ」が一般名詞として変化していきました。男女両用としてデザインされ、身頃はゆったりとし、前開きは左側か右側に寄った位置にボタンで留められる構造になっています。着用する際は裾をズボンの外に出し、ベルトを締めるスタイルが一般的です。

著名なロシア作家レフ・トルストイは、晩年にはルバシカを着用していたと言われ、彼の影響で民衆の間で広まりました。当時のロシア貴族たちは、主に下着として襟のないシャツを着ていたため、トルストイのルバシカは一般的な貴族の服とは対照的でした。この衣装は、インテリゲンツィアの人々に広まり、多くの文化的活動に組み込まれたのです。

日本においてルバシカが紹介されたのは、1910年（明治43年）頃のことです。ロシア演劇の公演を行う中で「本場」の演出を目指していた演劇人たちが、ルバシカを取り入れたことがきっかけでした。1917年のロシア革命を経て、演劇界では「ロシアらしさの象徴」としてさらに広がり、日本の大衆にも「ロシアのルバシカ姿」が浸透することになりました。特に大正末期から昭和初期にかけての一部の文化人や青年たちの間での流行が見られました。

ルバシカは、映画『ドクトル・ジバゴ』（1965年）でも取り上げられましたが、実際にはこの時代のロシアではほとんど見られなくなっていた服装のスタイルであり、その表現方法は「ステレオタイプなロシア」の描写として批判されることもありました。

軍服としてのルバシカ

興味深いことに、ルバシカは帝政ロシア時代には軍服としても使用されてきました。1880年には、トルキスタン軍管区で兵士の体操用の服としてコソヴォロートカ（長袖のシャツ）が支給されたことが始まりであり、その後、肩章がつくなどして軍用シャツとしての地位を確立しました。

ロシア革命とその後の内戦では、旧体制である白衛軍に対抗するため、労農赤軍によってルバシカの使用が見直され、新しいデザインの軍服が採用されました。しかし、1943年には、再び帝政時代に似たスタイルのルバシカが復活し、戦後しばらくの間、ソビエト連邦軍の一部として使用され続けました。

このように、ルバシカはロシア文化と歴史の中で多様な役割を果たしており、民族衣装としての魅力だけでなく、社会的・軍事的背景とも切り離せない深い関わりを持っています。

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