ル・プレノン

『ル・プレノン』（仏: Le Prénom、英: What's in a Name?）は、2012年にフランスとベルギーの共同制作で公開されたコメディ映画です。この作品は、アレクサンドル・ド・ラ・パトリエールとマチュー・デラポルトという二人の才能によって生み出されました。彼らはもともと、2010年に初演された同名の舞台劇を手がけており、その成功を受けて自らの手で脚本を脚色し、映画監督としてもメガホンを取りました。主要なキャストには、パトリック・ブリュエル、ヴァレリー・ベンギーギ、シャルル・ベルラン、ギヨーム・ドゥ・トンケデック、ジュディス・エル・ゼインといった俳優たちが名を連ねています。

物語の舞台となるのは、ある晩開かれた和やかな夕食会です。不動産業で成功したヴァンサンは、妹のエリザベットとその夫ピエール、そして幼なじみのクロードと共に、妊娠中の妻アンナを交えて楽しい時間を過ごしていました。しかし、ヴァンサンがもうすぐ生まれてくる男の子に付けようと考えている名前をうっかり明かした瞬間、その場の空気は一変します。特定の歴史的背景を持つその名前は、集まった面々の間に激しい波紋を呼び起こし、それまで表面下にあったそれぞれの思想、価値観、そして過去の秘めた感情が堰を切ったように溢れ出します。名前を巡る軽い冗談から始まったはずの議論は、次第に収拾がつかなくなり、友情や家族の絆までもが試されるような、壮絶な言葉の応酬へと発展していきます。限られた空間の中で展開される会話劇でありながら、登場人物たちのリアルな感情と知的な応酬が観る者を引きつけ、その緊張感から目が離せなくなります。

本作に登場する主要な人物たちは、いずれも個性豊かです。

ヴァンサン・ラルシェ: パトリック・ブリュエルが演じます。裕福で自信家ですが、彼の一言が全ての騒動の発端となります。
エリザベット・ガロー＝ラルシェ: ヴァレリー・ベンギーギが演じるヴァンサンの妹。国語教師で、愛称は「バブー」。自宅を舞台に、議論の行方を見守り、時に参加します。
ピエール・ガロー: シャルル・ベルランが演じるエリザベットの夫。リベラルな大学教授であり、ヴァンサンの名付けに対して真っ向から異論を唱えます。この役は舞台版から映画化にあたり俳優が変更されました。
クロード・ガティニョール: ギヨーム・ドゥ・トンケデックが演じる、一行の幼なじみであるトロンボーン奏者。一見穏やかですが、彼もまた自身の秘密を抱えています。
* アンナ・カラヴァッティ: ジュディス・エル・ゼインが演じるヴァンサンの妻。妊娠中の身で、夫の発言から始まる騒動を間近で見つめます。

彼ら主要キャストのうち、ピエール役を除く4人は原作舞台劇の初演時と同じキャストであり、そのケミストリーが映画にも引き継がれています。

本作は批評家からも一定の評価を受けました。フランスの映画情報サイト「アロシネ」での平均評価は5点満点中3.2点。国際的な批評集積サイト「Rotten Tomatoes」では、14件のレビューのうち71%が高評価（平均点5.1/10）。「Metacritic」では6件のレビューで平均66/100点と記録されており、概ね好意的に受け止められた作品と言えます。

フランス映画界で最も権威ある賞の一つ、セザール賞では、作品賞を含む5部門にノミネートされる栄誉に浴しました。特に、クロード役のギヨーム・ドゥ・トンケデックが助演男優賞を、エリザベット役のヴァレリー・ベンギーギが助演女優賞を受賞したことは特筆すべき点です。彼らの演技が、この会話劇に深みとリアリティを与え、評価された証と言えるでしょう。

原作となった舞台劇『Le Prénom』は、そのテーマ性と普遍性から国外でも注目されました。その結果、2015年にはイタリアで『Il nome del figlio』として、そして2018年にはドイツで『お名前はアドルフ?』という邦題で、それぞれ異なるキャスト・スタッフによって再映画化されています。これは、名前の持つ意味、歴史との向き合い方、世代間の価値観の衝突、そして身近な人間関係における本音と建前といったテーマが、文化や国を超えて多くの人々に響くものであることを証明しています。

2025年1月現在、残念ながらこの映画『ル・プレノン』は、日本国内では劇場公開もソフト化もされておらず、主要な動画配信サービスでも視聴することができません。そのため、本記事のタイトル「ル・プレノン」は、正式な日本語題ではなく、フランス語の原題「Le Prénom」をそのままカナ表記したものです。セザール賞受賞者を擁する質の高い会話劇コメディとして、今後日本でも多くの映画ファンが鑑賞できる機会が訪れることが待望されます。

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