ルーシー・リー

ルーシー・リー：ウィーンからロンドンへ、そして世界へ

ルーシー・リー（1902年-1995年）は、20世紀後半を代表する陶芸家の一人です。オーストリア・ウィーンの裕福なユダヤ人家庭に生まれた彼女は、芸術の盛んなウィーンで幼少期を過ごしました。ウィーン分離派やウィーン工房といった、革新的な芸術運動が花開く時代の中、リーは豊かな感性を育んでいきます。

ウィーンでの研鑽と成功

1922年、リーはウィーン工芸美術学校に入学。当初は絵画や彫刻を志望していましたが、陶芸の技術に魅せられ、陶芸家への道を歩むことを決意します。同校で、彼女はミヒャエル・ポヴォルニーという著名な陶芸家の指導を受け、釉薬の研究に没頭。その才能は早くから開花し、在学中に制作した作品は高い評価を受け、パリ万国博覧会など国際的な舞台で発表されました。卒業後も、ブリュッセル万国博覧会やミラノ・トリエンナーレで受賞するなど、順風満帆なキャリアを歩みます。

亡命と新たな出発

しかし、1938年、ナチス・ドイツによるオーストリア併合により、リーは迫害を逃れるため、イギリスへ亡命することを余儀なくされます。ロンドンで小さな工房兼住居を構え、新たな生活を始めました。しかし、イギリスでの陶芸家としての道は容易ではありませんでした。当時イギリスで主流だったのは、東洋陶磁器を参考に、重厚で安定感のある陶器でした。リーの繊細で装飾的な作品は、最初はなかなか理解されませんでした。

戦時下の苦難とアシスタントとの出会い

第二次世界大戦の勃発により、リーは生活のために陶器製のボタン制作を請け負うことになります。この時、アシスタントとしてハンス・コパーを雇いました。コパーもナチスの迫害を逃れてイギリスに亡命してきた陶芸家でした。二人は協力してボタン制作を続け、やがて共同でテーブルウェアの制作を始めます。

国際的な評価と日本の影響

戦争が終わると、リーの作品は次第に認められるようになりました。1950年にはロンドンでハンス・コパーとの共同展を開催し、その後はイギリス国内外で数々の展覧会に出品。1967年の回顧展は、彼女の芸術性を広く知らしめるきっかけとなり、国内外で高い評価を得ることになります。日本でも、いくつかの展覧会で作品が紹介され、特に三宅一生氏との交流は、日本でリーの作品の人気を高めることに繋がりました。三宅氏はリーの陶器製ボタンを服飾デザインに取り入れ、個展の企画・監修にも携わっています。

独自の作風とバーナード・リーチとの関係

リーは、イギリスを代表する陶芸家、バーナード・リーチと親交がありました。しかし、リーチの重厚な作風とは対照的に、リーの作品は軽く、繊細なものでした。当初はリーチから厳しい批評を受け、経済的にも苦しい時期を過ごしたとされています。それでも、リーは独自性を追求し続け、象嵌や掻き落としといった技法を駆使した、独自の作風を確立しました。晩年には、リーチからもその才能が認められるようになります。

晩年と遺産

1990年、リーは脳卒中により倒れ、陶芸活動を続けることができなくなります。1991年には大英帝国二等勲爵士に叙せられ、1995年、ロンドンで93歳で亡くなりました。彼女の作品は、現在も多くの美術館に所蔵されており、世界中の陶芸家や愛好家に影響を与え続けています。ルーシー・リーの生涯は、芸術家としての揺るぎない信念と、困難に屈しない強さを物語るものです。彼女の繊細で優美な作品は、これからも人々に感動とインスピレーションを与え続けるでしょう。

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