ルートヴィヒ・グットマン

生涯と経歴

ルートヴィヒ・グットマン（Ludwig Guttmann、1899年 7月3日 - 1980年 3月18日）は、ドイツに生まれ、ユダヤ系の神経学者として国際的に知られています。彼は、障害を持つ人々の尊厳と社会参加を回復させるため、スポーツを用いたリハビリテーションを提唱し、後のパラリンピックの礎を築いたことから、「パラリンピックの父」と称されています。

ドイツ帝国シュレージエン州トスト（現在のポーランド領グリヴィツェ郡トセク）で生まれたグットマンは、ライプツィヒ大学で神経医学を修め、卒業後は母校で講師を務めました。その後、ブレスラウのユダヤ病院で医師として勤務していましたが、1930年代後半にナチスによる反ユダヤ主義が高まる中、1938年にドイツを離れてイギリスへ亡命しました。イギリスではオックスフォード大学で脊髄損傷に関する医療研究を続け、その専門知識を深めました。

障害者スポーツへの貢献

第二次世界大戦中、多くの兵士が戦闘による負傷で脊髄損傷などの重い障害を負いました。グットマンは、1944年にロンドン郊外のストーク・マンデビル病院に開設された国立脊髄損傷センターの所長に就任し、1966年までその職を務めました。ここで彼は、従来の消極的な治療法に代わり、積極的なリハビリテーションの重要性を強く認識します。特に、身体機能の回復だけでなく、患者の精神的な立ち直りや社会復帰を促す手段として、スポーツが極めて有効であると考えました。

彼の革新的なアプローチはすぐに実行に移されました。1948年、ロンドンオリンピックの開会式と同じ日に、ストーク・マンデビル病院の入院患者たちによるアーチェリー大会を開催したのです。これが、後のストーク・マンデビル競技大会の始まりです。当初は病院内のイベントでしたが、グットマンの情熱と患者たちの熱意により、大会は回を重ねるごとに規模を拡大し、競技種目も増やしていきました。国内外からの参加者も増え、国際的な大会へと発展していきました。

そして、1960年には、同年にオリンピックが開催されたイタリアのローマで「国際ストーク・マンデビル車椅子競技大会」が開催されました。この大会は、後に第1回夏季パラリンピックとして正式に位置づけられることとなり、現在のパラリンピックへと繋がる国際的な障害者スポーツムーブメントの確固たる礎が築かれました。

グットマンは、常に患者たちに「障害ではなく、能力こそが重要である (It's ability, not disability, that counts)」という信念を伝え続けました。この言葉は、現在も障害者スポーツの根幹をなす哲学となっています。彼はまた、イギリス障害者スポーツ連盟の設立に尽力し、障害を持つ人々がスポーツを通じて社会参加する機会を広げました。これらの功績により、彼は大英帝国勲章を授与され、1976年には王立協会フェローに選出されるなど、国内外で高い評価を受けました。

日本との関わり

グットマンの障害者スポーツに対する哲学と実践は、海を越えて日本にも大きな影響を与えました。彼の下で学んだ日本の医師、中村裕がその重要な橋渡し役となりました。1959年には日本の厚生省からの研修生として中村医師を受け入れ、その知見を日本に持ち帰らせました。

1960年頃には、日本が1964年に東京オリンピックを開催することを知り、その機会に合わせてパラリンピックも日本で開催することを熱心に要請しました。彼の働きかけもあり、東京でのパラリンピック開催が実現に向け動き出しました。

1964年6月には、東京パラリンピックの開催準備を視察するため、初めて来日しました。この際には、大分県で開催されていた身体障害者体育大会も視察し、日本の障害者スポーツの状況を確認しました。同年11月には、第2回夏季パラリンピックとして開催された東京パラリンピックに主任医師として参加し、開会式ではスピーチを行いました。大会終了後、その功績に対し、日本の厚生大臣から勲三等旭日中綬章が贈られました。

その後も、1975年に大分県別府市で開催された第1回フェスピック（極東・南太平洋身体障害者スポーツ大会）の際にも来日しており、日本の障害者スポーツの発展を見守り続けました。

ルートヴィヒ・グットマンは、一人の医師として、また一人の人間として、障害を持つ人々の可能性を信じ、その社会的な地位向上に生涯を捧げました。彼が蒔いた種は、現在のパラリンピックとして世界中に根付き、多くの人々に勇気と希望を与え続けています。

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