ルーマニアのクリスマス

ルーマニアのクリスマス：信仰と祝祭の融合

ルーマニアにおけるクリスマスは、単なる12月24日、25日の祝祭ではなく、11月30日の聖アンドレイの日から1月7日の聖ヨハネの日までの期間、人々の生活に深く根付いた、盛大な年中行事です。キリスト教化以降、人々の信仰と共に発展してきたクリスマスは、社会主義時代の抑圧期を経て、民主化とともに再び華やかに復活しました。現代のルーマニアのクリスマスは、伝統的な宗教行事を中心に、国民的な祝典、そして現代的な要素も加わった、多様な側面を持つ祝祭となっています。

厳かなアドベントと伝統的な準備

クリスマスを目前にした7週間のアドベント期間（斎）は、ルーマニア正教会の信徒にとって重要な期間です。11月14日からクリスマス当日まで続くこの期間は、伝統的に「禁欲が始まる日」(Lăsata secului) と呼ばれ、動物性食品の摂取制限など、厳しい戒律が守られます。水曜日と金曜日は油脂類の摂取も禁じられ、特別な祝祭日（聖イグナティの日や統一記念日など）を除き、質素な食事が続けられます。特に、クリスマス・イブは、神への感謝を込めて完全な断食を行う日とされています。この40日間の禁欲期間は、復活祭に次ぐルーマニアにおける重要な宗教行事です。

アドベント期間中には、様々な伝統行事も行われます。11月30日の聖アンドレイの日は、悪霊や怪物から身を守るため、ニンニクや十字架を家中に飾る習慣があります。「オオカミの夜」と呼ばれる11月29日から30日にかけての夜は、ストリゴイ（吸血鬼）や狼男などの怪物が現れると伝えられており、人々は警戒を強めます。

12月1日は、ルーマニアのナショナルデーである統一記念日です。ブカレストやアルバ・ユリアでは、盛大な軍事パレードが行われ、国歌が演奏されます。各地では無料コンサートやストリートフェスティバルが開催され、テレビでは特別番組が放送されるなど、国民的な祝祭として盛大に祝われます。

12月に入ると、街はクリスマスのイルミネーションで彩られ、聖ニコライ（Moş Nicolae）が子供たちにプレゼントを届ける日（12月5日夜～6日朝）が訪れます。良い子にはお菓子や本、悪い子には木の棒がプレゼントされるという伝統があります。12月20日の聖イグナティの日になると、クリスマスの晩餐の準備が本格化し、豚を解体する家庭もあったり、クリスマスツリーを購入する家庭が多くなります。

クリスマス・イブとキャロル

12月24日のクリスマス・イブ（Noaptea de ajun）は、子供たちが近所を回ってクリスマスキャロル（コリンダ：Colindă）を歌い、お菓子などの贈り物をもらう風習があります。コリンダは、キリスト降誕を祝う伝統的な歌で、地域ごとに異なる歌詞やメロディーを持つものも多く、冬至祭であるサートゥルナーリア祭にルーツを持つとされています。女性たちがキャロルの褒賞としてクッキーを焼くのも、この日の風物詩となっています。クリスマスツリーの飾りつけも、この日までには完了しているのが一般的です。

クリスマスの晩餐と伝統料理

クリスマスの晩餐には、サルマーレ（Sarmale、ロールキャベツ）などの豚肉料理や、コゾナック（Cozonac、伝統的なケーキ）などが供されます。かつては家庭で豚を解体する家庭が多かったものの、現代ではスーパーマーケットで豚肉を購入する家庭が増えています。豚肉料理は、ルーマニアのクリスマスにおける重要な要素であり、人々の信仰と伝統が深く結びついた祝祭となっています。

ルーマニアのクリスマスは、宗教的な厳粛さと、人々の喜びと祝祭が融合した、独特の文化イベントです。伝統と現代が共存するこの祝祭は、ルーマニアの人々の生活に深く根付き、これからも受け継がれていくことでしょう。

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