ルーマニアのユダヤ人の歴史

ルーマニアにおけるユダヤ人の歴史

ルーマニア領域におけるユダヤ人の歴史は、古代のローマ帝国時代に遡ります。ユダヤ人の存在が初めて記録されたのは、2世紀頃のダキア属州の時代であり、アクメツェトカやサルミゼゲトゥサなどの地域からの考古学的発見がその証拠とされています。この時期のユダヤ人は比較的小規模なコミュニティを形成していましたが、16世紀に入ると、商業活動に従事するユダヤ人の数が増えていきます。

また、クリミア・カライム人などの民族集団もこの地域に定住し、さらにはモルダヴィアやワラキアでのユダヤ人の姿が見られるようになりました。たとえば、モルダヴィアでは、1391年から1394年にかけてユダヤ人が軍役を免除され、その対価として課された税金の支払いが行われていました。この時代のユダヤ人は多くが商人として活動していたものの、次第に宗教的迫害や人種差別の対象となることが増えていきました。

19世紀に入ると、ユダヤ人に対する迫害が少しずつ増加し、特に1848年のワラキア革命や露土戦争中は、その状況が大きく変貌します。ユダヤ人が地方での商業活動に従事する際、地域住民からの攻撃や偏見が加わり、社会的な緊張が高まりました。また、アレクサンドル・ヨアン・クザの治世では、ユダヤ人に対する市民権の制限が強化されたことで、社会的な立場が一層厳しくなりました。

第一次世界大戦後、ルーマニアにおけるユダヤ人の人口は急増し、彼らは国の経済や文化において重要な役割を果たしていましたが、同時に彼らを狙った厳しい制度的差別や偏見の対象でもありました。この状況は、19世紀末から20世紀初頭にかけてますます悪化し、特に1920年代には反ユダヤ主義が国家政策として取り入れられるようになります。ルーマニア政府は、ユダヤ人の市民権を剥奪する法律を次々に制定し、彼らの社会的地位をさらに低下させました。

1930年代から1940年代にかけて、ルーマニアではホロコーストが発生し、多くのユダヤ人が犠牲になりました。1941年のヤシポグロムなど、不況や戦争を背景にした暴動が多発し、コミュニティは大きな危機にさらされました。その結果、ルーマニア国内で少なくとも280,000人から380,000人のユダヤ人が命を落としたとされています。

戦後、少数のユダヤ人は生き残ったものの、国内事情により大規模な移住が始まりました。1950年代にはユダヤ人の人口は急激に減少し、現在ではわずか9,000人から15,000人にまでなっています。これにより、ルーマニアにおけるユダヤ人の歴史は、戦争や迫害だけでなく、生き残った人々の文化的・社会的な影響も込めて、非常に多面的なものとなっています。ルーマニアのユダヤ人社会はどのように変遷してきたのか、その歴史は今もルーマニアの文化と風土に深く刻まれています。

もう一度検索