ルーム40

第一次世界大戦と英国海軍情報部暗号解読部門「ルーム40」

第一次世界大戦時、英国海軍内に設置された極秘の暗号解読部門「ルーム40」は、戦争の帰趨を大きく変えるほどの功績を残しました。その歴史と活動、そして組織の変遷について詳細に見ていきましょう。

ルーム40の設立と初期の活動

1914年10月、英国海軍情報部はドイツ軍の無線通信傍受を開始しました。その発端は、海軍情報部長ヘンリー・オリバー少将の趣味的な傍受活動でした。彼は海軍教育部長アルフレッド・ユーイングにドイツの無線通信の傍受を依頼、ユーイングは民間人らと共に暗号解読を開始しました。

初期のルーム40は、人員も設備も不足した小さな組織でした。オズボーン海軍大学やブリタニア王立海軍兵学校の教官、言語学者などが、正規業務の傍らボランティアとして参加しました。活動拠点もユーイングのオフィスで、来客時には秘書の部屋に隠れる必要がありました。それでも、彼らは地道な努力でドイツ軍の暗号解読に挑み、徐々に成果を上げ始めました。

重要な暗号コードの入手

ルーム40の活動における大きな転機は、ドイツ海軍の暗号コードの入手でした。

SKM（Signalbuch der Kaiserlichen Marine）

座礁したドイツ軽巡洋艦「マグデブルク」から、ロシアが押収した暗号コードSKMを入手したことが最初の突破口となりました。SKMはドイツ海軍が使用する主要な暗号コードでしたが、解読は容易ではありませんでした。しかし、地道な分析と、ドイツ軍の無線通信のパターン分析により、解読に成功しました。当初は天気予報などの情報しか得られませんでしたが、解読方法を確立したことで、同盟国の船舶の位置に関する貴重な情報を得ることが可能となりました。

HVB（Handelsschiffsverkehrsbuch）

オーストラリア沖で拿捕したドイツの蒸気船「ホバート号」から、商船や大洋艦隊との通信に使用されていた暗号コードHVBを入手しました。HVBは複雑なコードでしたが、ルーム40の努力により解読に成功し、ドイツ海軍の動きに関する貴重な情報を手に入れることができました。

VB（Verkehrsbuch）

テセル島沖海戦で沈没したドイツ駆逐艦「S119」から引き揚げられた金庫の中から、ドイツ海軍将校が使用していた暗号コードVBを発見しました。この出来事は「奇跡の魚のドラフト」と呼ばれ、VBの解読によって、ベルリン、ワシントンなど世界各地のドイツ海軍将校との通信内容を解読することが可能になりました。

ルーム40の組織と活動拡大

初期は小さな組織だったルーム40でしたが、成果を上げるにつれて組織は拡大し、旧アドミラルティオールドビルの40号室に移転しました。そこでは、より組織的な暗号解読活動が行われるようになりました。ウィリアム・R・ホール大尉が新たな指揮官に就任し、組織はさらに効率化されました。

海軍本部との連携は必ずしも円滑ではなく、解読された情報は海軍専門家のみが分析するという方針のために、ルーム40の活動はしばしば制約を受けました。それでも、ルーム40はドイツ軍の通信を解読し続け、重要な情報を提供し続けました。特に、方向探知技術の導入により、ドイツ軍艦艇の位置を正確に把握することが可能となり、その情報はイギリス海軍の作戦に大きく貢献しました。

ツィンメルマン電報の解読

ルーム40最大の功績は、1917年1月に解読したツィンメルマン電報でしょう。この電報は、ドイツがメキシコに米国との戦争を唆し、領土割譲を約束した内容でした。この電報の解読によって、アメリカ合衆国はドイツに宣戦布告、連合国側に参戦しました。この出来事は、第一次世界大戦の戦局を大きく変えることとなったのです。

ルーム40の終焉とその後

第一次世界大戦後、ルーム40は閉鎖され、その機能はMI1b（後に政府通信本部と暗号学校、GC&CSへと発展）に統合されました。GC&CSは第二次世界大戦中、ブレッチリー・パークを拠点に活動し、現代のGCHQへと受け継がれています。

まとめ

ルーム40は、限られた人員と設備の中で、卓越した暗号解読技術と粘り強い努力によって、第一次世界大戦における連合国側の勝利に大きく貢献しました。その歴史は、情報戦の重要性と、地道な努力の成果を示す好例と言えるでしょう。また、ルーム40は現代の情報機関の礎を築いた組織の一つと言えるでしょう。彼らの功績は、今日においても高く評価されています。

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