レオン・クリエ

レオン・クリエ：伝統を重んじる建築・都市計画の巨匠

レオン・クリエ（Léon Krier）は、1946年ルクセンブルク生まれの建築家、建築理論家、都市計画家です。彼は、モダニズム建築を批判し、伝統的な建築様式と都市計画の復興を主張する、現代建築界において重要な人物の一人として知られています。クリエの思想は、新伝統主義や新都市主義の運動に大きな影響を与えてきました。

生い立ちとキャリア

クリエは、1968年にドイツのシュトゥットガルト大学で建築学を学んでいたものの、わずか1年で中退。その後、イギリスの建築家ジェームズ・スターリングの事務所で働き始めました。スターリングの事務所で4年間、ベルリンのジョセフ・ポール・クライウエスの事務所で2年間勤務した後、彼はイギリスに戻り、建築協会と王立芸術大学で20年間、建築と教育に携わりました。

この時期、クリエは「私は建築家である、なぜなら私は建物を建てないから」という言葉で知られるようになります。この言葉は、彼の妥協のない反モダニズム的な姿勢を象徴するものでした。1970年代後半以降、クリエは最も影響力のある現代の伝統的な建築家およびプランナーの1人となり、モダニズム建築の機能的なゾーニングや郊外化を批判し、伝統的なヨーロッパの都市モデルの再構築を主張しました。

ニューアーバニズムへの影響

クリエの思想は、アメリカとヨーロッパの両方で、ニューアーバニズム運動に大きな影響を与えてきました。彼の最も重要な著作の一つである『コミュニティの建築（The Architecture of Community）』には、彼の思想が体系的にまとめられています。

彼は、英国ドーチェスターの都市拡張であるパウンドベリーの開発マスタープランと継続的な監修で最もよく知られています。その他、グアテマラシティのパセオカヤラなど、いくつかの都市計画プロジェクトを手がけています。また、1976年から2016年まで、プリンストン大学、イエール大学、バージニア大学、コーネル大学、ノートルダム大学で客員教授を務めました。1987年から1990年までは、シカゴのスキッドモア、オウイングス＆メリル建築研究所の初代所長を務め、1990年からは、イタリアの家具会社ジョルジェッティの工業デザイナーとしても活躍しています。

建築と都市計画へのアプローチ

クリエは、都市計画プロジェクトでのコンサルタントとしての活動に加えて、自らが選んだ建物のみを設計しています。彼の代表的な作品には、1980年のヴェネツィアビエンナーレのファサード、フロリダ州シーサイドのクリエハウス、ポルトガルのサン・ミゲル・オドリーニャス考古学博物館などがあります。また、フロリダ州のウィンザービレッジホール、マイアミ大学建築学校のホルヘ・M・ペレス建築センター、イタリアのアレッサンドリアの新しいネイバーフッドセンターであるチッタヌオーヴァなどのプロジェクトも手がけています。

クリエの建築に対するアプローチは、形式と技術の両面で、ヴァナキュラー建築（その土地の伝統的な建築様式）と古典的な建築様式を尊重するものです。彼は、伝統的なヨーロッパの都市モデルの復興を提唱し、1978年に故郷であるルクセンブルクの「再建」計画（未実現）を立案しました。これは、都市の近代的な再開発に対する彼の回答でした。その後、彼は兄のロブ・クリエが設計したルクセンブルクの新しい司法都市（1990-2008）のマスタープランも作成しています。

都市の規模と成長

クリエは、ハインリッヒ・テッセノウの考えに賛同し、都市の経済的および文化的豊かさと人口の制限の間には、密接な関係があると考えています。彼は、都市の測定値と幾何学的構成は、単なる偶然や経済的必要性だけでなく、美的、技術的、立法的、倫理的な文明秩序を表していると主張します。クリエは、パリのような産業化以前の都市は、その適応性の高さから20世紀の都市にはない強みを持っていると指摘しました。一方で、ミルトンケインズのような都市は、数学的に決定された社会経済プロジェクトとして計画されているため、経済危機などの危機に脆弱であると批判しています。クリエは、都市の巨大化傾向に反対し、自給自足の混合利用地区を、人間の規模で決定される多中心型都市モデルを提唱しました。徒歩10分以内で移動できる、3〜5階または100段程度の高さの建物が並ぶ地区を単位とし、大通りや公園で結ばれた都市構造を提案しています。都市の成長は、既存の都市中心部の過度の拡張ではなく、独立した都市地区の増殖によって実現されるべきだと主張しました。

モダニズム都市計画への批判

クリエは、モダニズムの都市計画を、住宅、ショッピング、産業、レジャーなどの用途によって都市を分割する原則を批判しています。彼は、モダニズムの計画者を、イデオロギーに支配された暴力的な人物と見なし、過度な巨大構造物を課す存在だと考えています。彼の批判は、ドローイングと注釈付きの図の形で具体化されており、これらの多くは、彼の著書『建築のための図面』に収録されています。クリエは、民家などの基本的な都市構造は地方固有のデザインの対象とし、公共施設などの特別な建物は古典建築の対象とすべきだと主張しました。そして、これらを特別な場所、広場、主要な眺望の中心に配置することを提唱しました。

建築と都市の原則

クリエの著作の根底にある原則は、建築と都市の合理的な基礎を説明することです。彼は、建物には合理的な秩序とタイプがあり、家、宮殿、寺院、鐘楼、教会など、それぞれに固有の名前付きのオブジェクトがあると考えています。クリエは、建物は大きくなるべきではなく、分割されるべきだと主張します。例えば、フランスのサン＝カンタン＝アン＝イヴリーヌにある学校の計画では、学校を「ミニチュアの都市」と見なしました。建物は、その種類と体積が、機能的な多様性を反映している必要があり、不必要な均一性や不必要な種類は避けるべきだとしました。クリエは、都市ブロックとそれらの間に生成された公共空間の調和が重要であると述べています。

「スタイルのない建築」

クリエの作品は、「スタイルのない建築」と呼ばれることもありますが、その外観はローマ建築に非常によく似ています。彼の作品は、ロンドン、ストックホルム、テネリフェ、フロリダなど、様々な場所に展開されています。

マニフェストテキスト

クリエは、復興の考え方、ゾーニングの批判、巨大都市の批判、工業化の批判、都市の大きさ、モダニズムの批判、有機的組成と機械的組成など、多くのテーマについて執筆しており、これらの多くはオンラインで入手できます。

主要な出版物

クリエは数多くの書籍や論文を発表しています。主な出版物には、『ジェームス・スターリング：建物とプロジェクト 1950-1974』、『ラショナル・アーキテクチャ』、『レオン・クリエ：住宅、宮殿、都市』、『レオン・クリエ：ドローイング 1967-1980』、『アルバート・シュペーア、建築 1932-1942』、『レオン・クリエ：建築と都市デザイン 1967-1992』、『アーキテクチャ：選択か運命か』、『あなたの家を正しくする』、『集落の建築調整』、『建築図面』、『コミュニティの建築』などがあります。

クリエは、現代建築と都市計画において、重要な思想的基盤を築いた人物の一人であり、彼の思想は、今後も建築界に大きな影響を与え続けるでしょう。

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