レギュレイターズ

レギュレイターズ

『レギュレイターズ』（原題: The Regulators）は、モダンホラーの巨匠スティーヴン・キングが、長らく封印していたもう一つの顔、リチャード・バックマン名義で1996年に世に送り出した長編小説です。

概要と特色

本作は、同年にスティーヴン・キング名義で発表された『デスペレーション』と非常に特異な関係にあります。通常の続編やスピンオフとは異なり、この二作品は同じ年、同じテーマ、そして共通する邪悪な存在や一部の登場人物名といった「枠組み」を共有しながらも、物語の展開、主要人物たちの年齢や職業、性格、そしてそれぞれの果たす役割は全く異なります。さらに著者の名義すら変えられています。これは、熱心なキング作品の読者であれば気づくような、過去の作品世界や登場人物の設定を再利用するキングの手法が、新たな、より実験的な形で展開されたものと言えるでしょう。

リチャード・バックマン名義での作品ですが、その内包する雰囲気やテーマはキングの筆致を強く感じさせます。特に、物語の核心にいる人物の精神世界を舞台にした戦いの描写は後の『ドリームキャッチャー』にも通じる要素であり、また物語の断片が日記や新聞記事、何気ない会話の端々に散りばめられ、終盤でそれらが繋がり合って驚くべき全体像を明らかにする巧妙な構成は、読者を強く引き込みます。

あらすじ

物語の舞台はオハイオ州の穏やかな田舎町、ポプラストリート。夏の平和なある日、突如として異常なワゴン車に乗った者たちが現れ、静かに暮らしていた住民たちに無差別に銃撃を始めます。困惑する住民たちですが、襲撃は執拗に繰り返されます。住民の一人である作家のジョン・マリンヴィルは、襲撃者たちがまるで子供向けのSF番組や西部劇の登場人物のようであることに気づき、彼らがどこか現実離れした存在であると直感します。

時間が経過するにつれて襲撃は激化し、恐るべきことにポプラストリートそのものも、まるで西部劇の荒野のような砂漠の風景へと変貌を遂げていきます。そして、これらの異常事態が、この街に住む自閉症の少年セス・ガーリンが偏愛するSF番組や西部劇の世界と奇妙に結びついていることが明らかになっていきます。

実はセス少年は、遡ること2年ほど前、ネヴァダ州のデスペレーションという街を通りかかった際、抗いがたい力に導かれるように古い鉱山の坑道へ入り込み、そこで得体の知れない、邪悪な存在を取り込んでしまっていたのです。その邪悪な存在の名は「タック」。タックは2年間もの間、セスの内側で力を蓄え、今まさにその影響が現実世界に噴出し始めていたのです。物語は、外部で繰り広げられる恐怖と並行して、セス少年の内側でタックとの壮絶な精神的な戦いが描かれていきます。

リチャード・バックマン名義について

リチャード・バックマンは、スティーヴン・キングが自身の作風とは異なる物語を発表する際に使用していたペンネームです。しかし、1984年の長編『痩せゆく男』を最後に、キングはこの名義の使用を止め、「バックマンは1985年に偽名癌で死亡した」と公表していました。本作が実に10年以上ぶりにこのペンネームで発表されたため、キングは巧妙な仕掛けを用意しました。作品の冒頭に「編集者の記」という形式を取り、本書がバックマンの未亡人が引っ越し準備中に地下室で発見した、1994年に完成していた未発表のタイプ原稿である、というフィクションの設定を付け加えることで、この名義での「復活」に説得力を持たせています。

日本語版

日本では、山田順子氏による翻訳で新潮文庫から上下巻として出版されています。

レギュレイターズ 上巻（ISBN 4102193510）
レギュレイターズ 下巻（ISBN 4102193529）

関連作品

* デスペレーション

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