レッドベリー

レッドベリー（Lead Belly）ことハディ・ウィリアム・レッドベターは、19世紀末から20世紀中頃にかけて活躍した、アメリカを代表するフォーク・ブルースミュージシャンです。澄んだ力強い歌声と卓越した12弦ギターの演奏技術、そして豊富なレパートリーで知られています。

多彩な音楽性と楽器演奏

レッドベリーの音楽は、ゴスペル、ブルース、フォークソングなど多岐にわたります。彼は12弦ギターをメインに演奏しましたが、ピアノ、マンドリン、ハーモニカ、ヴァイオリン、コンサーティーナ、アコーディオンなど、様々な楽器を使いこなすマルチプレイヤーでもありました。ギターを弾きながら歌うだけでなく、手拍子や足踏みだけでリズムを刻み、歌うこともありました。歌詞の内容も幅広く、恋愛、酒、差別といったブルースのテーマから、カウボーイ、刑務所、労働、船乗りといったフォークソングのテーマまで、多彩な題材を扱いました。フランクリン・ルーズベルト大統領やアドルフ・ヒトラー、億万長者のハワード・ヒューズなど、当時の有名人について歌った曲も残っています。

生誕を巡る議論

レッドベリーの正確な生年月日については諸説あり、長らく議論の的となっています。最も早い説では1885年、他の説では1888年または1889年とされています。1900年の国勢調査では、1888年1月生まれの12歳と記録されていますが、他の資料では1月20日、21日、29日など、日付についても複数の説が存在します。レッドベリー自身が第二次世界大戦の徴兵登録で1889年1月23日と記載した記録も残っています。

波乱に満ちた若年期

レッドベリーはルイジアナ州のプランテーションで生まれましたが、5歳の時に家族とともにテキサス州へ移住しました。10代の頃にはすでに音楽家として名を馳せ、ルイジアナ州シュリーブポートの歓楽街で演奏活動を行っていました。1910年の国勢調査では、最初の妻であるアレサ・ヘンダーソンと同居していたことが記録されています。若い頃から音楽の才能を発揮し、様々な場所で演奏を重ねていました。

服役と「発見」

レッドベリーは喧嘩っ早く、何度もトラブルを起こしました。1918年には親族を殺害して服役し、その刑務所で「ミッドナイト・スペシャル」の原型となる曲を作ったとされています。釈放を嘆願する歌が知事の心を動かし、刑期を短縮されて出所しました。1930年には殺人未遂罪で再び服役しますが、その時に音楽研究者のジョン・ローマックスとアラン・ローマックス親子に「発見」されました。彼らはレッドベリーの音楽に魅了され、多数の曲を録音し、その才能を世に広めるきっかけを作りました。刑務所では、その屈強な体格から「レッドベリー」というあだ名がつけられ、その後、それが彼の芸名として定着しました。

名声を得るも不遇な晩年

1934年、レッドベリーはアラン・ローマックスの協力でニューヨークに移住し、フォークシーンで名声を得ます。しかし、商業的な成功にはあまり恵まれず、1939年には脅迫罪で再び服役しました。1940年に釈放された後は、ウディ・ガスリーやピート・シーガーらと交流し、フォーク音楽の普及に貢献しました。1944年にはキャピトル・レコードでレコーディングを行いましたが、1949年にヨーロッパツアー中に病に倒れ、筋萎縮性側索硬化症と診断され、その年のうちにニューヨークで亡くなりました。彼の遺体は、故郷に近いルイジアナ州の墓地に埋葬されました。レッドベリーの音楽は、今日でも多くの人々に愛され、後世の音楽家たちにも大きな影響を与えています。

レッドベリーは、波乱万丈な生涯を送りながらも、その音楽を通して人々の心を揺さぶり、アメリカ音楽史に大きな足跡を残した人物と言えるでしょう。

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