レディズ・コンパニオン

レディズ・コンパニオンとは

レディズ・コンパニオン（Lady's Companion）は、裕福な女性や身分の高い女性の付き人として同居し、彼女たちの日常生活をサポートする職業です。この用語は18世紀から20世紀半ばまでのイギリスで広く使われていました。コンパニオンは、雇用主と同級かやや下の社会階級出身者で、住み込みで働くことで生計を立てていました。

職務内容と地位

コンパニオンの主な仕事は、女主人やその女性家族と共に過ごし、話し相手となったり、社交的な行事に同行したりすることです。来客への応対を手伝うこともあり、実質的には家庭内での親しい付き合いが求められました。彼女たちは給与を受け取りますが、その実態は賃金よりも手当という形で支給され、衣食住は保証されていました。コンパニオンは使用人部屋ではなく、家族の同じ部屋で生活し、食事も家族と一緒にとることが許されていました。

また、コンパニオンは家の仕事全般を行う必要はなく、必要に応じて周囲の使用人に指示を出す役割も果たしていました。このように、彼女たちは他の家族と同じ位の地位に置かれており、成人の親戚の如く扱われることが多かったのです。

コンパニオンは、レディズ・メイド（女中）とは異なり、より高い社会的地位を持っていると考えられています。また、ガヴァネス（女性家庭教師）とも違い、より気楽な立場とされ、家族のような一体感を持つことが多かったのです。イギリス王室には、レディ・イン・ウェイティングという役職もありましたが、これは社会的地位や目的が異なります。

コンパニオンは、上流階級や中流家庭の女性が自宅で過ごす時間が長いことから必要とされ、独身の女性や児のない既婚女性が主に彼女たちを雇っていました。特に、父親や男性親族のもとに住んでいる若い未婚女性にとって、男性の客人を迎えるためにはコンパニオンが必要でした。

採用基準と社会的背景

コンパニオンの職に就くための基準は、雇用主と同じくらいの社会階級かやや下である必要があります。この理由には、当時の女性が他の生計手段を持つことが難しかった背景があります。特に19世紀後半まで、上中流階級の女性がその地位を維持しつつ生計を立てる手段は限られていました。

ガヴァネスや私立女学校の経営者、著述家などが少ない選択肢の中にあり、1859年には女性雇用促進協会が設立されるなど、状況が改善されるための努力が行われました。

職業の衰退

しかしながら、20世紀に入ると、上流階級の女性が家庭に留まらなくなったことや、一般的に女性の雇用機会が増加したことから、レディズ・コンパニオンという職業は衰退していきました。先進国全体でこの傾向は見られ、伝統的な役割や立場が変わっていくこととなったのです。

アガサ・クリスティとコンパニオン

イギリス著名な作家アガサ・クリスティの作品には、コンパニオンが度々登場します。彼女の短編集『火曜クラブ』には、「The Companion」と題した作品があり、これはコンパニオンの存在が彼女の日常生活に深く根ざしていたことを示しています。クリスティの作品に描かれるコンパニオンの位置づけには、時代の変化が色濃く反映されており、戦前と戦後で描かれ方が異なります。戦前の作品ではコンパニオンが裕福な家庭において一般的な存在として描かれているのに対し、戦後の作品では、経済的困難に直面している高齢の女性といった悲劇的な役割を担うことが多くなります。

彼女たちはもともと自活を期待されずに育った世代であり、戦争や経済恐慌の影響を受けて生き残りを必死に求めている姿が、クリスティの作品を通じて伝わります。

コンパニオンという職業は、過去の文化や社会の変化を反映した興味深い存在であり、その歴史を知ることで、当時の女性の立場や社会的状況がどのようであったのかを理解する一助となります。

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