レプコ

Repcoは、オーストラリアとニュージーランドに約400店舗を展開する巨大な自動車用品小売チェーンです。しかし、その歴史は、単なる小売業にはとどまりません。Repcoの名は、1960年代のF1世界選手権で、その名を輝かせた、高信頼性エンジンサプライヤーとしての歴史も持ち合わせています。

Repcoという社名はReplacement Parts Companyの略称です。同社は、自動車の補修部品、カー用品、工具などを幅広く取り扱っています。2013年末時点ですでにオーストラリアに295店舗、ニュージーランドに81店舗を展開し、さらに業者向けの販売網も10店舗保有するなど、オーストラリアとニュージーランドにおける自動車関連市場において、圧倒的な存在感を示していました。

しかしRepcoが世界的に知られるようになったのは、F1における活躍がきっかけです。Repcoは、ビュイック製のV8、2500ccエンジンをベースに、独自のF1用エンジンを開発しました。このエンジンは、1960年代初頭、1500ccから3000ccへと排気量規定が変更されたF1において、他のチームが混乱に陥る中、圧倒的な信頼性を誇りました。

このエンジンを搭載したのが、オーストラリア出身のF1ドライバー、ジャック・ブラバム率いるブラバムチームです。ブラバムマシンは、ロータスやフェラーリといった強豪チームのマシンに比べると、瞬間的な速さでは劣るものの、レプコエンジンの信頼性の高さによって、メカニカルトラブルが非常に少なく、安定したレース運びが可能でした。その結果、1966年、ジャック・ブラバムは自身製作のマシンで、世界チャンピオンに輝きます。これは、F1史上初の快挙であり、現在も唯一の記録です。翌1967年には、ブラバムチームの同僚であるデニス・ハルムがチャンピオンを獲得するなど、レプコエンジンの信頼性は、当時のF1を席巻しました。しかし1968年以降は、他チームも信頼性の高いエンジンを開発するようになり、出力で劣るレプコエンジンは徐々に競争力を失っていき、レプコエンジンのF1での成功は、1966年と1967年の2年間のみとなりました。

この画期的なレプコF1エンジンの開発者こそが、イギリスの天才的エンジニア、フィル・アービングです。アービングは、2輪の世界で名車として知られるヴィンセントバイクの設計にも携わっていました。ヴィンセントは、市販バイクとして初めて200km/hを超える速度に到達したバイクとしても有名です。アービング自身は、「ヴィンセント社の社長は世界一を誇示したがったが、設計者である私が最も重視したのは信頼性だった。それはレプコエンジンでも同じだった」と語っており、彼のエンジニアとしての哲学が、レプコエンジンの信頼性の高さに繋がっていたことが分かります。

現在、Repcoはオーストラリアのモータースポーツシーンに、依然として深く関わっています。2021年からは、オーストラリアの最高峰ツーリングカー選手権であるスーパーカーズ選手権のタイトルスポンサーを務めるなど、その存在感は増すばかりです。Repcoは、自動車用品小売業として成功を収めただけでなく、F1という世界最高峰の舞台においても、その技術力を示した、オーストラリアを代表する企業と言えるでしょう。

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