レベッカ (小説)

『レベッカ』

概要

『レベッカ』は、イギリスの著名な作家ダフニ・デュ・モーリエによって1938年に発表された長編小説です。彼女のキャリアにおいて最も広く知られ、代表作の一つと位置づけられています。物語の大部分は、当時夫が赴任していたエジプトの都市アレキサンドリアで執筆されたと言われています。

作品名と登場人物

作品のタイトルとなっている「レベッカ」とは、物語の語り手である「わたし」（名前は作中で明かされません）が再婚する相手、マキシム・ド・ウィンターの亡くなった前妻の名前です。語り手自身は、結婚後、レベッカと同じ呼び方である「ミセス・ド・ウィンター」として周囲から認識されることになり、このことが彼女のアイデンティティに深く関わってきます。

あらすじ

物語は、モンテカルロの高級ホテルで、裕福なアメリカ人、ヴァン・ホッパー夫人の付き人として働く若い女性（語り手）が、イギリスの由緒ある貴族であり広大な邸宅の主であるマキシム・ド・ウィンターと出会う場面から始まります。彼は前年に不慮のヨット事故で妻レベッカを亡くしたばかりでしたが、二人は急速に惹かれ合い、やがて結婚を決意します。若い女性は、マキシムの後妻として、イングランドのコーンウォール地方にある彼の荘厳な邸宅「マンダレイ」へ行くことを受け入れます。

コーンウォール海岸の息をのむような自然に囲まれたマンダレイは、多くの使用人が仕える広大な屋敷でした。新しい女主人として迎えられた語り手は、これまでの境遇から人に使われることしかなかったため、邸宅の管理や使用人への指示といった役割に全く慣れておらず、ただでさえ戸惑うことばかりでした。さらに彼女を待ち受けていたのは、亡き前妻レベッカの強烈な存在感でした。

邸宅の調度品から庭園の隅々に至るまで、全てが洗練されたレベッカの趣味によって整えられており、使用人たちは今なお完璧だったレベッカを称賛します。特に、レベッカに心酔していた家政婦長のダンヴァース夫人は、新しい女主人である語り手に対して明確な敵意を示し、心理的に追い詰めていきます。語り手は、生前のレベッカがいかに美しく、魅力的で、完璧な女性であったかを聞かされるたびに、自分自身が彼女の影に霞んでいくように感じ、自信を失い、精神的に追いつめられていきます。

マンダレイの生活は、亡霊のように存在し続けるレベッカの記憶によって支配されているかのようでした。しかし、物語の後半に進むにつれて、ある出来事をきっかけに、夫マキシムが誰にも語っていなかった過去の秘密や、周囲からは完璧に見えたレベッカの、マキシムですら知らなかった意外な一面が次々と露呈していきます。これにより、物語は予測不能な方向へと展開し、読者は登場人物たちの複雑な心理と過去の真相に引き込まれていきます。

影響と評価

本作は、ゴシックロマン特有の雰囲気に加え、登場人物の緻密な心理描写とサスペンスフルな展開が高く評価されています。語り手の名前を伏せる手法は、彼女がレベッカの存在によって自己を見失っていく様を効果的に描いています。

派生作品

『レベッカ』は発表以来、広く人気を博し、様々なメディア展開がなされています。特に著名なのは、サスペンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコックが監督し、1940年に公開された映画版です。この作品はアカデミー作品賞を受賞するなど、高い評価を得ました。また、2020年にもベン・ウィートリー監督による新たな映画化が行われています。その他にも、舞台劇やミュージカルとしても上演されています。

日本語訳

日本では、複数の翻訳者による様々な版が刊行されており、多くの読者に親しまれています。

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