レマン・エクスプレス

レマン・エクスプレス（Léman Express）

レマン・エクスプレスは、スイス西部の主要都市ジュネーヴを中心に、国境を越えてフランスのオート＝サヴォワ県およびアン県に広がる都市圏、「グラン・ジュネーヴ」を結ぶ広域通勤鉄道網です。スイスとフランスの様々な町を鉄路で結び、その総延長は約230キロメートルに及び、現在6つの路線が運行されています。

このネットワークの根幹をなすのは、ジュネーヴ・オー・ヴィーヴ駅とジュネーヴ中央駅であるコルナヴァン駅を新たに接続するCEVA計画（Cornavin - Eaux-Vives - Annemasse）によって整備された路線です。この区間は大部分が地下化されており、2019年12月15日に開業しました。CEVA路線の開通により、ジュネーヴ・コルナヴァン駅からフランス国内のエヴィアン、トノン、アヌマッス、アヌシー、さらにはアルヴ渓谷を経由してサン＝ジェルヴェ＝レ・バンといった方面への直通運転が可能となり、利便性が飛躍的に向上しました。

運行状況

レマン・エクスプレスは通常、毎日午前5時から深夜0時30分頃まで運行しています。特に金曜日と土曜日の夜間には、スイス側のコペとフランス側のアヌマッスの間において終夜運転が実施され、週末の遅い時間帯における移動ニーズにも応えています。

利用者数

2019年12月の全線開業当初、一日あたりの利用者数は5万人程度を見込んでいました。2020年3月初旬には、実際に約4万5千人に達しましたが、その直後に発生した新型コロナウイルスのパンデミックとそれに伴う移動制限により、乗客数は一時的に大幅に減少しました。その後、状況の改善と共に利用は回復に向かい、2020年6月にはパンデミック発生前の約50%の水準に戻りました。そして、2021年10月には一日あたり約4万9,800人の利用者数を記録し、開業当初の予測に近い水準まで回復しています。

複雑な運賃体系

レマン・エクスプレスは二つの国にまたがる国際的なシステムであるため、その運賃体系は比較的複雑です。運行開始以前から、ジュネーヴ都市圏ではユニレゾ(Unireso)というゾーン制運賃体系が用いられており、「ゾーン10（全ジュネーヴ）」と呼ばれるジュネーヴ州全域をカバーするエリアでは、現在もユニレゾの料金が適用されます。スイスのヴォー州内を発着する場合や、フランス国内のみを利用する場合には、それぞれスイス国鉄（SBB）やフランス国鉄（SNCF）の地域圏輸送（TER）の運賃が適用されます。スイス・フランス間の国境を越えて乗車する場合の運賃は、レマン・パス・レートに基づいて、乗車距離に応じて算出されます。

ユニレゾのゾーン内相互間を移動する場合は均一運賃となり、例えばアヌマッスからゾーン10の端に位置するポン・セアルまで約44分かかる区間も、隣のシェーン＝ブールまで約7分の区間も、運賃は同じです。さらに、レマン・エクスプレスのネットワーク外ではありますが、アヌマッスからジュネーヴ空港までの移動も同額の運賃で利用できます。一方、アヌマッスからコペのように、ゾーン10をまたいで遠距離を移動する場合には、全区間を通して距離に応じた運賃が適用される仕組みとなっています。

歴史的背景

ジュネーヴ都市圏は、市の中心部から国境を越えてフランス側へと拡大し、フランスに居住しながらジュネーヴへ通勤・通学する人々が増加しました。これに伴い、都市圏内の鉄道網はスイス国鉄とフランス国鉄がそれぞれ自国領内を担当するという分断された形態をとっていました。

レマン・エクスプレス以前

2019年のレマン・エクスプレス開業に先立つ時期、ジュネーヴ近郊の鉄道網はRER（Rhône Express Regional）と呼ばれていました。これはパリのRERと同じ略称でしたが、その性質は異なり、ジュネーヴ中心部のコルナヴァン駅を起点として近郊エリア（フランス側を含む）を結んでいました。ジュネーヴ州内のみを移動する場合は、バスやトラムと同様の市内交通の切符で乗車可能でした。フランスにまたがる路線は、フランス国鉄TERローヌ＝アルプ地域圏のネットワークの一部ともなっており、非接触型ICカードOùRAも利用できました。この時代の主要な路線には、コルナヴァン発着でベルガルド、コペ、ジュネーヴ空港、そしてランシー・ポン・ルージュを経由してアヌマッスへ向かうものがありました。特にランシー・ポン・ルージュを経由する路線は、当初は貨物駅の一部を利用した簡易的なもので、アヌマッス方面へは小規模な単線区間が延びているに過ぎませんでした。

CEVA計画の実現

この状況を改善し、都市圏鉄道網を強化するために、2012年からCEVA計画に基づく大規模な工事が始まりました。これは、フランス国鉄が管轄していたジュネーヴ・オー・ヴィーヴ駅（かつてはフランス方面へのターミナルでしたが小規模でした）とアヌマッス間の既存路線を拡張し、コルナヴァン駅からのネットワークに組み込むことを目的としていました。ランシー・ポン・ルージュからの路線は地下トンネルや掘割を通じてオー・ヴィーヴ駅へ接続され、コルナヴァン駅と直結するようになりました。また、従来の単線区間は複線化されました。既存のオー・ヴィーヴ駅やシェーヌブール駅では、歴史ある駅舎を保存しつつ地下に新たな駅構造を構築するという手法が取られました（シェーヌブール駅舎は工事のため約30メートル移動されました）。さらに、ジュネーヴ大学病院前とカルージュには新しい駅が設置されました。工事期間中、シェーヌブールとアヌマッス間は運休となり、バスによる代行輸送が行われました。2019年12月15日、コルナヴァン - オー・ヴィーヴ - アヌマッス間の地下新線を含む全区間が開通し、ここにレマン・エクスプレスの本格的なネットワークが完成しました。

今後の構想

レマン・エクスプレス網の整備後も、周辺地域における鉄道網の拡充に関する議論は続いています。例えば、フランス国内のベルガルドからジェクスを経てフェルネイ＝ヴォルテールやディヴォンヌ＝レ・バンを結ぶ路線は1997年に運行を休止し、現在はバスで代替されています。ジュネーヴ都市圏では、これらのバス路線（フランス国鉄TERバス、ジュネーヴ州立交通局TPGバス、ニヨン市管轄TPNバスなど）が既存の鉄道網と連携し、国境地域一帯の移動を補完しています。かつてスイス側のニヨンからディヴォンヌまで鉄道路線が存在した歴史もあり、こうした廃止路線の再開を望む声も存在します。2009年には、ベルガルド、ディヴォンヌ、ニヨンを結ぶ鉄道路線の再開を目指す「ジェクスレール」協会が設立されましたが、2023年現在、具体的な実現に向けた動きは確認されていません。

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