レ・ソワレ・ドゥ・パリ

レ・ソワレ・ドゥ・パリ (Les soirées de Paris) : 20世紀初頭の芸術と文学の交差点

『レ・ソワレ・ドゥ・パリ』は、1912年から1914年まで刊行されたフランスの月刊文芸・美術誌です。ギヨーム・アポリネールを中心に、当時の前衛的な芸術家や文学者たちが集い、新たな芸術思潮を発信する場となりました。

創刊の背景と概要

雑誌は、1911年のモナリザ盗難事件で疑いをかけられ、失意の中にいたギヨーム・アポリネールを支援するために、彼の友人であるアンドレ・ビリー、ルネ・ダリーズ、アンドレ・サルモンらによって企画されました。雑誌名はビリーによって提案され、アポリネールが再び文学界で活躍するための足がかりとなることを目指しました。

雑誌は、大きく分けて2つのシリーズに区分されます。

第Iシリーズ (1912年2月 - 1913年6月): 文学色の強いシリーズで、創刊メンバーである文学者たちの詩や散文作品が中心でした。アポリネール自身も多くの詩や美術批評を寄稿し、自身のキャリアを確立するための実験的な場として活用しました。代表作である「ミラボー橋」や「地帯」もこのシリーズで発表されています。
第IIシリーズ (1913年11月 - 1914年7-8月): ロシア人画家のセルジュ・フェラが芸術編集を担当し、キュビスムを中心とした美術作品の掲載が増えました。ピカソの作品を掲載したことが、購読者の減少につながるなど、賛否両論を呼びました。マックス・ジャコブやブレーズ・サンドラールといった新たな執筆陣も加わり、映画コラムなど斬新な企画も展開されました。

アポリネールの関与と影響

アポリネールは、『レ・ソワレ・ドゥ・パリ』において、詩人、美術評論家としての才能を遺憾なく発揮しました。彼の詩は、後の詩集『アルコール』に再録され、彼の代表作として広く知られています。また、キュビスムに関する美術批評は、彼の著書『キュビスムの画家たち』に収録され、キュビスムの理論的基盤を築く上で重要な役割を果たしました。

雑誌の終焉と意義

『レ・ソワレ・ドゥ・パリ』は、アポリネールの実験的な試みやキュビスムへの傾倒が、他の編集メンバーの関心と乖離していたこと、購読者数が伸び悩んだことなどから、運営が困難となり、1914年に廃刊となりました。しかし、短い期間ながらも、文学と美術の革新的な潮流を紹介し、アポリネールをはじめとする多くの芸術家の才能を開花させる場となりました。

その後の影響

『レ・ソワレ・ドゥ・パリ』は、20世紀初頭の芸術思潮を反映する貴重な資料として、現在も研究対象とされています。アポリネールのカリグラム（絵画的詩）の最初の発表の場でもあり、彼の詩的実験の過程を辿る上でも重要な意味を持っています。また、キュビスムをはじめとする前衛芸術の普及に貢献し、後世の芸術家たちに大きな影響を与えました。

この雑誌は、文学と美術が交差し、新たな芸術が生まれる瞬間の熱気を伝える、貴重な記録と言えるでしょう。

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