マックス・ジャコブ

マックス・ジャコブ：多才な芸術家の生涯

マックス・ジャコブ（Max Jacob, 1876年7月12日 - 1944年3月5日）は、フランスの詩人、小説家、劇作家、画家、美術評論家であり、ホロコーストの犠牲者でもあります。彼は、アポリネールと共にキュビスムを代表する詩人であり、ダダイスムやシュルレアリスムの先駆者として、新しい散文詩を確立しました。また、ピカソ、モディリアーニ、ジャン・コクトーをはじめとする前衛芸術家や文学者と幅広く交流し、膨大な書簡を遺しました。

生い立ち

マックス・ジャコブは、1876年、ブルターニュ地方のカンペールで、ユダヤ系ドイツ人の家系に生まれました。彼の家系は、代々仕立屋を営んでおり、マックス自身もブルターニュの風土やユダヤ文化、ドイツ文化の影響を受けました。しかし、幼い頃からカトリックに憧れを抱いていました。

1888年、家族はジャコブ姓に改名し、マックス・ジャコブ・アレクサンドルからマックス・ジャコブと名乗るようになりました。彼は想像力豊かな子供でしたが、動作が緩慢で注意散漫だったため、両親は心配し、14歳の頃にパリで療養することになりました。その後、リセでは優秀な学生として教師に期待され、読書に耽り、音楽や絵画に深い関心を寄せました。

パリでの活動

1894年、リセを卒業後、パリの植民地学校に入学しますが、3年後に退学し、カンペールに戻ります。その後、再びパリに戻り、法学の学士号を取得。美術評論を執筆しながら、生活のために様々な職を転々とします。1901年にはピカソの個展を見て魅了され、彼と親交を深めました。1902年からは、ピカソがマックスのアパートに身を寄せ、共に生活しました。

マックスは、モンマルトルの木造家屋「洗濯船」に住み、そこはピカソやモディリアーニら多くの芸術家の活動拠点となりました。「洗濯船」はキュビスムが誕生した場所としても知られています。マックス自身が命名したこの場所は、彼の芸術活動における重要な舞台となりました。

見神体験と洗礼

マックスは、2度見神体験をします。最初の体験は1909年で、壁にキリストが出現したと言います。その後、1914年には映画館で2度目の見神を経験し、カトリックに改宗することを決意します。1915年、彼はピカソを代父としてカトリックの洗礼を受け、キプリアヌスという洗礼名を授かりました。

ブルターニュの風土と作品

1909年頃から故郷カンペールとパリを行き来しながら制作を続け、カンペールの風土を描いた画家や作家とも親交を深めました。1911年には、ブルターニュを歌った詩集を発表。晩年には、サン＝ポル＝ルーに絶賛された『ゲール人モルヴァンの詩集』を執筆しました。また、1911年から1914年にかけて聖マトレルを主人公とする三部作を発表し、ダダイスムやシュルレアリスムの先駆けと評されました。

骰子筒と新しい散文詩

1917年に発表した散文詩集『骰子筒』は、彼の精神世界の探求が結実した作品です。この作品は、旧来の作詩法から解放された自由な韻律と、口語・俗語の使用によるイメージの絶対的自由を確立し、詩におけるキュビスムとも評されました。浅野晃は、マックスをアポリネールと共に「立体派を代表する特異な詩人」と評しています。

前衛芸術運動

第一次世界大戦中もパリに残り、友人たちと手紙のやり取りを続けました。1917年、アポリネール、ピエール・ルヴェルディとともに『南北』誌を創刊。ダダイスム、シュルレアリスムの先駆けとなる前衛芸術・文学雑誌を刊行しました。また、ダダイスムの機関誌『リテラチュール』やアポリネールが主宰した『レ・ソワレ・ドゥ・パリ』にも寄稿しました。マックスは、レイモン・ラディゲの詩を評価し、ジャン・コクトーに紹介するなど、多くの若い才能を発掘しました。

隠棲と晩年

1921年から1928年、そして1936年から1944年まで、マックスはサン＝ブノワ＝シュル＝ロワールに隠棲し、祈りと制作に専念しました。隠棲中も、多くの友人たちと手紙のやり取りを続けました。1925年にはローマを訪れ、イタリアを旅行。また、ブルターニュ出身の作家や画家との交流も深めました。

1928年、パリでの活動を再開し、1930年にはパリとニューヨークで個展を開催。若い芸術家たちを支援しました。しかし、1936年に再びサン＝ブノワ＝シュル＝ロワールに隠棲し、二度とパリに戻ることはありませんでした。

第二次世界大戦勃発後、ナチス・ドイツによって出版が禁止され、彼の最後の詩集も発禁処分となりました。1944年、マックスはゲシュタポに逮捕され、ドランシー収容所に送られ、肺炎のため亡くなりました。彼は「フランスのために死す」と認定され、1949年にサン＝ブノワ＝シュル＝ロワールに改葬されました。

没後

1949年、「マックス・ジャコブ友の会」が結成され、ピカソが名誉会長に就任。マックスの作品は、現在も多くの人々に読まれ、研究されています。彼の生涯と作品は、20世紀初頭の芸術運動を理解する上で、非常に重要な存在です。


マックス・ジャコブは、詩、小説、演劇、絵画、評論と多岐にわたる分野で才能を発揮し、キュビスム、ダダイスム、シュルレアリスムといった前衛芸術運動の発展に大きく貢献しました。彼の作品は、独特のユーモア、諷刺、精神性が特徴であり、その影響は現代の芸術にも及んでいます。

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