レーザー誘起ブレークダウン分光法

レーザー誘起ブレークダウン分光法（LIBS）とは

レーザー誘起ブレークダウン分光法（LIBS: Laser-Induced Breakdown Spectroscopy）は、高エネルギーのパルスレーザーを分析対象に照射し、その結果発生するプラズマの発光を分析する原子発光分析法の一種です。この技術は、物質の元素組成を迅速かつ直接的に分析できるため、様々な分野で活用されています。

原理

LIBSの基本的な原理は、高出力のレーザーパルスを対象物に照射することです。レーザー光が集光されると、照射された部分の物質が瞬間的に高温・高密度のプラズマ状態になります。このプラズマは、非常に高い温度（15,000K～30,000K）に達し、構成する原子やイオンが励起され、特定の波長の光を放出します。この発光を分光器で分析することで、物質に含まれる元素の種類と量を特定できます。このプラズマの生成は、レーザーのエネルギーが物質の光学的絶縁破壊の閾値を超えたときに起こります。

特徴

LIBSは、分析対象の状態（固体、液体、気体）にほとんど依存しないため、幅広い種類の試料を分析できます。また、測定は光学的技術のみで完結するため、非接触での測定や遠隔操作が可能です。これにより、放射能汚染環境下での分析や惑星探査といった特殊な環境下での利用も可能になります。さらに、LIBSは、全ての元素が固有の周波数を持つ発光を利用するため、基本的には測定範囲と感度のみに依存して、ほぼ全ての元素を検出できます。試料の構成成分が既知であれば、その相対的な存在量を評価したり、不純物の含有量を測定することも可能です。

利点

迅速な分析: 複雑な前処理を必要とせず、数秒から数十秒で結果が得られます。
多様な試料に対応: 気体、液体、固体など、さまざまな形状の試料に対応できます。
非破壊分析: （微小な損傷はあり得るものの）基本的には非破壊で分析できます。
遠隔操作可能: 光ファイバーを用いることで、離れた場所や危険な環境下での分析が可能です。
多元素同時分析: 一度の測定で複数の元素を同時に分析できます。
高感度分析: 他の発光分析では難しいハロゲンなどもppmオーダーで検出可能です。
多元素分布解析: 固体試料の場合、レーザー照射とスキャンにより、2次元または3次元の多元素分布解析が可能です。

課題

精度と感度: 分析精度や検出感度は、試料の物性に左右される場合があります。
試料の損傷: レーザー照射により試料表面に微小な損傷を与えるため、文化財や美術品の分析には注意が必要です。
定量分析の困難さ: 試料や測定条件によっては、検量線法などを用いた定量分析が難しい場合があります。

メーカー

LIBSの分析装置は、複数のメーカーから販売されています。
オーシャンオプティクス
SciAps
SECOPTA
Applied Spectra Inc.

応用分野

LIBSは、環境分析、材料科学、地質学、食品分析、考古学、法医学など、幅広い分野で応用されています。特に、現場での迅速な元素分析や、特殊な環境下での分析にその強みが発揮されます。

まとめ

レーザー誘起ブレークダウン分光法は、迅速かつ非破壊的な元素分析を可能にする強力な分析技術です。その汎用性と応用の広さから、今後ますます様々な分野で活用されることが期待されています。

参考文献

レーザー分光分析 - 原田明, 澤田嗣郎 丸善出版 ISBN 9784621081365
Handbook of Laser-Induced Breakdown Spectroscopy PAPERBACKSHOP UK IMPORT ISBN 9781119971122

関連項目

炎色反応
原子吸光
分光測色法
超高速レーザー分光法
ICP発光分光法 (ICP-AES)
フレーム発光分光法

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