レールトラック

レールトラックとは:イギリス鉄道民営化の象徴



レールトラック(Railtrack)は、1994年から2002年までイギリスの鉄道インフラを所有・管理していた企業グループです。線路、信号機、トンネル梁、駅といった鉄道網の根幹を担い、ロンドン証券取引所にも上場していましたが、度重なる事故と経営悪化により、最終的に破綻しました。

概要:民営化の光と影



レールトラックは、イギリス国鉄の民営化の一環として設立されました。列車運行会社に線路を貸し出すことで使用料を得て、保守会社にメンテナンスを発注するというビジネスモデルでした。当初は、コスト削減と政府補助金の削減を目指し、株式上場も果たしましたが、鉄道事業の細分化、複雑な契約関係、技術的知識の不足などが原因で、事故が多発し鉄道網は大混乱に陥りました。

歴史:設立から破綻まで



1994年4月1日に鉄道インフラの管理を開始し、1996年6月に株式上場を果たしました。しかし、1997年のサウスオール事故、1999年のラッドブルック・グローブ列車衝突事故など、重大な事故が相次ぎ、鉄道の機能別分割が安全や保守に悪影響を与えているとの批判が高まりました。

2000年10月17日に発生したハットフィールド脱線事故は、レールトラック崩壊の決定的な瞬間でした。事故後、全国の鉄道網で大規模な修繕作業が行われましたが、レールトラックには技術的な知識を持つ人材が不足しており、事故原因の特定や再発防止策の策定が遅れました。また、事故後の速度制限により鉄道網は麻痺状態に陥り、会社の株価は急落しました。

ウェスト・コースト本線の近代化費用の高騰も経営を圧迫し、2001年10月7日、レールトラックは財産管理下に置かれました。これは、鉄道網の運行を維持するための特殊な措置であり、親会社のレールトラック・グループplcは財産管理下には置かれず、他の事業を継続しました。

ネットワーク・レールへの移行



レールトラックplcの買収を目的に、ネットワーク・レールが設立されました。当初、政府は民間企業による入札を認めていましたが、レールトラックの財務データが限られていたことや、政府がネットワーク・レールによる買収を強く望んでいたことから、他の入札者は現れませんでした。2002年10月3日、ネットワーク・レールがレールトラックplcを買収し、鉄道網はより公的管理の強い体制へと移行しました。

清算と株主訴訟



レールトラック・グループはRTグループに改称し、2002年10月18日に任意解散しました。レールトラックの事業と70億ポンドの負債は、ネットワーク・レールに5億ポンドで売却されました。

レールトラックの株主は、補償の増額を求めて訴訟を起こしました。一部の株主は、保守党政権がレールトラック設立時に不正確な情報を提供したとして政府を訴えましたが、2005年10月14日の判決で、政府の不正行為は認められませんでした。最終的に、株主には1株あたり262ペンスの補償金が支払われ、訴訟は終結しました。

レールトラックの教訓



レールトラックの事例は、イギリスの鉄道民営化における重要な教訓を提示しています。鉄道インフラの管理には、高度な技術力と長期的な視点が不可欠であり、短期的な利益追求や過度なコスト削減は、安全性の低下やサービスの悪化につながる可能性があります。また、鉄道事業の細分化は、会社間の連携不足や責任の不明確さを招き、事故発生時の対応を困難にする可能性があります。

レールトラックの破綻は、イギリスの鉄道政策に大きな影響を与え、その後の鉄道網の再編や規制強化につながりました。現在、イギリスの鉄道は、ネットワーク・レールがインフラを管理し、複数の列車運行会社がサービスを提供するという体制で運営されています。

参考文献



RT Group Official site
Railtrack Action Group Homepage - ウェイバックマシン(2009年7月28日アーカイブ分)
Railtrack Private Shareholders Action Group
Christian Wolmar, The Guardian, 16 July 2005, "Forget Byers: the scandal was in the original sell-off: Railtrack was heading for disaster long before the Hatfield crash"
BBC news report on Railtrack compensation, December 2002
Text of a 1999 speech by Gerald Corbett
BBC article on Corbett's role with Railtrack
Guardian, 15 October 2005, "Railtrack shareholders lose court battle for compensation"
* Why Rails Crack, the likely cause of the Hatfield crash Ingenia, June 2005

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