ネットワーク・レール

Network Rail：イギリス鉄道網を支えるインフラ企業

Network Railは、イングランド、スコットランド、ウェールズの鉄道網の大部分を所有・管理する事業者です。株主を持たない有限責任会社として、収益は鉄道網の改善に再投資されています。主な顧客は、旅客・貨物列車の運行を担う民間企業です。2014年からは、公共企業体として分類されています。

歴史：民営化と再編

イギリスの鉄道網は、1947年の国有化を経て、1990年代に再民営化されました。この際、施設管理と列車運行を分離する上下分離方式が採用され、1994年から2002年までは、レールトラック社が鉄道インフラを管理していました。しかし、2000年のハットフィールド脱線事故をきっかけに、レールトラック社は財務危機に陥り、政府の介入を招きます。

政府は、レールトラック社を5億ポンドで買収し、Network Railを設立。レールトラック社はNetwork Railインフラストラクチャーとして再編されました。この買収により、Network Railはイギリス鉄道網の管理・運営の中核を担うことになります。

2002年以降、Network Railは鉄道網の改善に努め、安全性の向上、コスト削減、遅延解消に取り組んできました。政府の鉄道事業見直しを経て、Network Railは鉄道網の改良計画、ダイヤ設定、線路利用戦略など、より広範な責任を負うようになりました。また、組織再編を行い、9つの地域事業部門を設立するなど、効率的な運営体制を構築しています。

責務：広範な鉄道インフラの管理

Network Railは、線路、信号、架線、トンネル、橋梁、踏切、駅などの鉄道インフラを所有・管理しています。2,500以上の駅を所有しますが、主要駅19駅のみを直接管理し、残りの駅は列車運行会社が管理しています。

Network Railは、ナショナル・レール（イギリスの旅客鉄道網のブランド名）とは異なる組織です。ナショナル・レールの一部路線では貨物輸送も行われており、貨物専用線も存在します。一方、Network Railの網外の路線もナショナル・レールの一部として営業されています。

資産：広大な鉄道網と設備

Network Railは、約32,000キロメートルにおよぶ線路と40,000以上の橋やトンネルを管理しています。かつてはインフラ保守を民間企業に委託していましたが、2003年以降、コスト上昇や品質問題への懸念から、多くの保守作業を直営化しました。

しかし、大規模な更新や近代化計画（ウェスト・コースト本線改良、テムズリンク計画、クロスレール計画など）は民間企業との契約により実施されています。Network Railは、技術力の向上のため、見習い制度や学位制度への投資も行っており、社内技術力の強化に努めています。

駅：多様な駅施設の管理

Network Railは2,500以上の駅を所有し、その多くは列車運行会社が管理・運営しています。Network Railは、20駅を直接管理しており、近年は主要駅の管理を更に増やす傾向にあります。マンチェスターの主要駅なども、今後Network Railの直接管理に移行予定です。

訓練施設：高度な人材育成

Network Railは、イギリス各地に教育訓練施設を設け、従業員のスキル向上に力を入れています。上級見習いコースでは、イギリス海軍の施設も利用し、高度な訓練を提供しています。また、シェフィールド・ハラム大学と連携し、準学士制度も運営しています。

通信施設：高度な通信インフラの運用

Network Railは、信号制御、電力制御、列車無線、駅情報システムなどのための広範な通信インフラを運営しています。これはイギリス国内で最大規模の私有通信設備です。GSM-R無線システムへの移行も進められています。

鉄道車両：安全確認と保守のための車両

Network Railは、安全確認や保守作業のために様々な鉄道車両を保有・運用しています。また、必要に応じて、民間企業から貨物用機関車を借りることもあります。

資産売却の可能性と今後の投資計画

2015年には、政府によるNetwork Railの一部資産売却の可能性が報じられましたが、政府はこれを否定しました。

Network Railは、旅客数の増加に対応するため、クロスレール、路線電化、テムズリンク改良、HS2など、380億ポンド規模の大規模な投資計画を進めています。リスク管理には、GRIPと呼ばれる8段階のプロセスを用いています。

統制構造と説明責任：政府との連携と監視

Network Railは、評議員、列車運行会社との契約、そして鉄道道路局による監督を通じて、説明責任を負っています。2015年からは、運輸大臣が唯一の評議員となっています。鉄道道路局は、Network Railの業績を継続的に監視し、必要に応じて是正措置を講じています。

安全性：事故と改善への取り組み

Network Railは、安全性の向上に努めていますが、過去には脱線事故などによる批判も受けています。安全対策の強化、リスク管理の改善、事故原因究明など、安全性の向上に向けた取り組みを継続しています。

公的部門か民間部門か：複雑な位置づけ

Network Railは公式には民間企業体ですが、政府の債務保証や出資など、政府との密接な関係性から、その位置づけについては長年議論が続いていました。2014年からは、政府企業体として分類されることになりました。

その他の論点

公的資金の誤用疑惑、差別問題、叙爵問題など、Network Railは様々な批判にも直面しています。

まとめ

Network Railは、イギリスの鉄道網の安全と効率的な運営に不可欠な存在です。歴史的な経緯、複雑な組織構造、財務状況、そして安全性に関する課題など、様々な要素が絡み合う組織です。今後の発展計画や、政府との関係性を含め、その動向に注目が集まります。

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