ロウの聖母

ロウの聖母：アルプス山麓の奇跡と回心のメッセージ

17世紀のフランス、アルプス山脈の麓に位置するロウの谷で、1664年から1718年にかけて起こった聖母マリアの出現は、人々の信仰心に深く刻まれた奇跡として知られています。この聖母出現の物語は、当時若い羊飼いだったブノワット・ランキュレルという少年にまつわるものです。

静かな山村と貧しい羊飼いの少年

ロウの谷は、ドーフィネ地方ギャップの南東に位置し、17世紀当時、小さな村落でした。20戸ほどの家が寄り集まって形成されたこの村では、住民たちは「聖母の受胎告知」を祭る教会を建て、静かな日々を送っていました。

ブノワットは1647年、サンテティエンヌ・ダヴァンソン（現在のサン＝テティエンヌ＝ル＝ロウ）で生まれた3人兄弟の次男でした。7歳の時に父親を亡くし、貧しい生活を強いられた一家は、子供達も働きに出る必要がありました。ブノワットもまた、羊飼いとして働きながら生活を支えていました。しかし、信心深い母親の影響で、ブノワットは幼い頃から教会でミサに参加し、聖母マリアへの深い信仰心を育んでいました。

聖モーリスの導きと聖母との出会い

1664年、ブノワットが17歳になった頃、羊飼いの仕事中、ロザリオの祈りを捧げていると、3世紀の聖人である聖モーリスが現れました。聖モーリスは、ブノワットにサンテティエンヌの上にあるキリヌの谷で聖母マリアに会うことができることを告げます。

5月16日、ブノワットは聖モーリスの導きに従い、キリヌの谷を訪れました。そこで彼は、聖母マリアと幼子イエスに出会います。最初は聖母子だと気づかなかったブノワットでしたが、後にマリア自身からその身分を告げられました。

その後、数ヶ月間にわたって聖母マリアはブノワットに現れ、様々な教えを授けました。「聖母マリアの連祷（ロレトの連祷）」などの祈りを教えた聖母は、さらにブノワットに罪人を改心させるという重要な使命を託しました。神から人の心を読み取る能力を与えられたブノワットは、聖母の指示に従い、ロウ村で古い聖堂を見つけました。荒れ果てていたその聖堂は、「ボン・ランコントルの聖母（Notre Dame de Bon Rencontre）」に捧げられており、聖母はそれを修復し、罪人の回心の場とすることを望みました。また、聖堂の聖櫃から出る油は、信仰を持つ人々の病を癒す力があるとブノワットに告げました。

回心と救済のメッセージ

聖母マリアはブノワットを通して、罪人への償いの重要性を訴え続けました。イエス・キリストの犠牲によって罪人が救済されることを信じ、聖体拝領のための聖堂、そして司祭のための住居が建てられることを望みました。聖母からブノワットに伝えられたメッセージの中心は、神との完全な和解、そして自分自身と他者との和解を促すものでした。

教会による公認と巡礼地

ロウの聖母出現の奇跡は、長い間人々の間で語り継がれてきました。そして2008年、ギャップの司教ジャン・ミッシェル・ド・ファルコ・レアンドリによって「ロウの聖母」と「罪人の避難場所」が正式に公認されました。さらに2009年には、教皇ベネディクト16世によって崇敬が認められ、ロウの聖母は、数々の奇跡と聖母の深いメッセージを伝える聖地として、世界中からの巡礼者を迎えています。聖母マリアの出現は、人々の信仰心を揺るがし、罪の悔い改めと救済への道を示す、今もなお続く奇跡の物語です。

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