ロシアのアルメニア人

ロシアのアルメニア人：歴史、文化、そして現代社会

ロシア連邦におけるアルメニア人は、その規模と影響力において無視できない存在です。ロシア最大の少数民族の一つであり、アルメニア国外最大のアルメニア人ディアスポラを形成しています。2010年の国勢調査では約120万人と報告されましたが、実際には200万人以上がロシアに居住しているとの推測もあります。モスクワやサンクトペテルブルクといった大都市から、北カフカス地方や極東ウラジオストクに至るまで、広範囲にわたって定住しています。

歴史：交易から経済発展への貢献

中世後期以降、アルメニア人商人や職人は交易ルートの確立と商業活動を通じ、クリミア半島や北カフカスを経由してロシアへと進出しました。ロシア帝国時代には、その起業家精神が特に高く評価されました。1778年、エカテリーナ2世はクリミアからアルメニア人商人を招き、ロストフ・ナ・ドヌ近郊にナヒチェヴァニ＝ナ＝ドヌという居住区を設立しました。これは、ロシア経済の発展に大きく寄与する契機となりました。

しかしながら、アルメニア人商人に対する偏見も存在しました。「狡猾な商人」というイメージは、ロシア貴族社会に広く浸透していました。貴族階級は農奴制に依存した経済システムを維持していたため、商業活動への理解は不足しており、アルメニア人商人の成功を必ずしも好意的に見ていたわけではありませんでした。

19世紀半ば、南カフカス地域に資本主義と産業化の波が押し寄せると、アルメニア人中間層は新たな経済情勢への適応に成功し、富裕層へと成長する者も多く出てきました。特に石油ブームにおいては、バクーの油田やバトゥミの精製所への大規模投資を行い、大きな成功を収めました。この経済的成功は、アルメニア人、ジョージア人、アゼルバイジャン人といった民族間の緊張を高める一因にもなりました。民族や宗教的な違いに加え、社会経済的な要因が複雑に絡み合っていたのです。しかし、成功した商人というイメージとは裏腹に、19世紀末にはロシア系アルメニア人の8割が小作農として生活していました。

ソ連時代には、アルメニア人のロシアへの移住は政府によって奨励され、経済的な支援も行われました。これは、アルメニアからの移民だけでなく、アゼルバイジャン、ジョージア、中央アジアなどからも多くのアルメニア人が移住した要因の一つです。ロシア系アルメニア人連合によると、現在、ロシアには250万人以上のアルメニア人が居住していると推定されています。

人口分布：主要都市におけるアルメニア人コミュニティ

ロシアのアルメニア人の人口分布は、モスクワ、サンクトペテルブルク、クラスノダール地方、ロストフ・ナ・ドヌなどに集中しています。

モスクワ: モスクワは、アルメニア国外最大のアルメニア人コミュニティの一つと考えられており、数十万人規模のアルメニア人が居住しています。

サンクトペテルブルク: 18世紀初頭からアルメニア人が定住しており、現在も活発なコミュニティを形成しています。アルメニア教会や学校、アルメニア語の出版物なども存在し、独自の文化を維持しています。

クラスノダール地方: ロシア最大のアルメニア人ディアスポラの一つで、数十万人が居住しています。ソチ、クラスノダールなど主要都市に多く集中しています。

ロストフ・ナ・ドヌ: エカテリーナ2世の時代にクリミアから移住してきたアルメニア人が居住区を形成し、現在もミャスニコフスキー地区を中心に大きなコミュニティを形成しています。

著名なアルメニア系ロシア人

ロシアのアルメニア人コミュニティは、芸術、エンターテイメント、政治、軍事、科学、スポーツなど、様々な分野で顕著な人物を輩出しています。

芸術・エンターテイメント: イヴァン・アイヴァゾフスキー（画家）、アルメン・ドジガルハニャン（俳優）、アラム・ハチャトゥリアン（作曲家）など、多くの著名な芸術家やエンターテイナーがいます。

政治・軍事: アナスタス・ミコヤン（ソ連の政治家）、イワン・バグラミャン（ソ連の軍人）など、ロシアの歴史に影響を与えた政治家や軍人も多くいます。

科学: セムヨン・キルリアン（物理学者）、レオン・オルベリ（生理学者）など、科学分野においても重要な貢献をした人物がいます。

スポーツ: カレン・ハチャノフ（テニス選手）、エフゲニア・メドベージェワ（フィギュアスケート選手）など、世界的に活躍するスポーツ選手も輩出しています。

まとめ

ロシアのアルメニア人は、長きにわたる歴史と独自の文化を持ち、ロシア社会に大きな貢献をしてきました。今後も、芸術、文化、経済、社会など様々な分野で、その存在感を示し続けるでしょう。彼らの歴史と文化を理解することは、ロシア社会全体を理解する上で不可欠です。

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