ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について

2021年7月12日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領によって発表された論文『ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について』は、ロシア・ウクライナ危機（2021年-2022年）の第一段階が終了した直後に公開され、国際社会に大きな波紋を呼びました。

この論文において、プーチン大統領は、ロシアとウクライナの歴史的、文化的、民族的な結びつきについて独自の解釈を展開しています。彼は、ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人を「歴史的に三位一体のロシア民族」であると主張し、両国が共通の遺産と運命を共有していると述べています。この主張の根拠として、プーチン大統領はロシアとウクライナの歴史に対する独自の解釈を詳細に説明しています。

しかし、この論文は単に歴史的な事実を述べるだけにとどまらず、ウクライナの独立国家としての存在を否定するものでもあります。プーチン大統領は、ウクライナ国内に多数の「ロシア人」が存在することに着目し、「ロシアに対して攻撃的な民族的に純粋なウクライナ国家の形成」をロシア人に対する大量破壊兵器の使用になぞらえ、ウクライナの国家としての正当性に疑問を呈しています。

さらに、プーチン大統領はウクライナの現代の国境についても批判を展開します。彼は、現代のウクライナが「歴史的なロシアの土地」を「占領」していると主張し、現在のウクライナは17世紀以降、外部の勢力によって計画された「反ロシアプロジェクト」の産物であると非難しています。また、ドンバス戦争についても触れ、「キエフは単にドンバスを必要としない」と述べています。

プーチン大統領は、現状を「外国の陰謀と反ロシアの陰謀」によるものとし、ウクライナ政府の決定は「ロシアに対する西側の計画」や「バンデーラの信奉者」によって推進されていると主張しています。そして、この論文の結論として、「現代のウクライナ問題」における「ロシアの役割」を強調しています。

この論文発表後、数ヶ月後には、ロシア連邦安全保障会議の副議長であるドミートリー・メドヴェージェフも、プーチン大統領の論文に同意する内容の記事を発表しました。メドヴェージェフは、ウクライナ政府が交代するまで、ウクライナとの交渉は行われないと宣言しました。しかし、この記事は、その軽蔑的かつ反ユダヤ主義的な口調で批判を浴びることになりました。また、プーチン大統領の元顧問であるウラジスラフ・スルコフも、ウクライナを含む旧ソ連諸国に関する記事を発表し、ロシアの西側国境の正当性に疑問を呈し、ロシアは現状を打破すべきだと主張しました。

これらの論文や記事に対する反応として、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、プーチン大統領の国家間の兄弟愛に関する見解をカインとアベルの物語と比較し、強く批判しました。また、元大統領のペトロ・ポロシェンコもこの論文を、アドルフ・ヒトラーのズデーテン地方演説になぞらえ、同様に批判しました。

この論文は、ロシアとウクライナの歴史認識を巡る論争に新たな火種を投じ、両国間の関係をさらに悪化させる要因の一つとなりました。ロシア側の主張と、ウクライナ側の反論は対立し、両国間の緊張は高まる一方です。

参考文献：

Wikisource. Об историческом единстве русских и украинцев（ロシア語）
Wikisource. On the Historical Unity of Russians and Ukrainians（英語）
プーチン『ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について』(2021)　山形浩生・訳 - 山形浩生の「経済のトリセツ」（日本語）
ロシアとウクライナの歴史的統一・日本語訳（日本語）

関連項目：

特別軍事作戦の実施について
ウラジーミル・メジンスキー

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