ロシア東方辺境

ロシア東方辺境とは

ロシア東方辺境（ロシア語: Российская Восточная Окраина、英語: Russia Eastern Outskirts）は、ロシア内戦中の1919年から1920年にかけて、ロシア東部に存在した地方政府です。この地域は、シベリア鉄道沿線を中心に展開し、複雑な政治情勢の中で短期間ながらも独自の歴史を刻みました。

成立の背景

1919年、西シベリアにおける白軍は赤軍に敗北を喫し、その勢力は大きく後退しました。白軍の最高指揮官であったアレクサンドル・コルチャークは、1920年1月4日にアタマン・グリゴリー・セミョーノフに対し、「ロシア東方辺境の領土全体の民間・軍事における最高権力」を委任しました。これを受けてセミョーノフは、1月16日にチタを中心とする地域に「ロシア東方辺境政府」を樹立しました。この政府の成立には、当時シベリアに出兵していた日本軍の支援が不可欠でした。政府の長にはカデットのセルゲイ・タスキンが就任しました。

極東共和国との対立

しかし、ロシア東方辺境政府の成立と同時期に、別の動きも進んでいました。1920年4月6日、ヴェルフネウジンスクで緊急に招集された制憲議会が、極東共和国の樹立を宣言しました。この極東共和国は、ソビエト連邦の影響下にある緩衝国家として、シベリアにおける内戦の収束を目指しました。5月14日には日本軍も極東共和国との会談に同意し、5月24日からゴンゴタの鉄道駅で会談が始まりました。

この会談で、日本側はロシア東方辺境政府が極東共和国と対等な立場で統一政府を形成することを主張しましたが、極東共和国側はこれを拒否しました。この対立は深刻化し、会談は行き詰まりました。

日本軍の撤退と政府の崩壊

1920年7月3日、日本軍はシベリアからの撤兵を布告しました。ロシア東方辺境政府が日本軍の支援なしには存続できないことを理解していたセミョーノフは、日本側に撤兵を4か月遅らせるよう求めましたが、受け入れられませんでした。また、沿海州ゼムストヴォに対し合併を働きかけましたが、これも不調に終わりました。

7月17日には、極東共和国代表とシベリア駐留日本軍代表が緩衝国建設覚書を締結し、ロシア東方辺境政府は完全に孤立しました。日本軍の後ろ盾を失った白軍は南東へ撤退し、中国領への退却準備を始めました。一部の部隊のみがチタに残り、シベリア鉄道の封鎖を継続しましたが、もはや政府としての実態は失われていました。

消滅

1920年9月には、臨時東ザバイカル議会が発足し、セミョーノフは民政権力を移譲しました。同じ頃、独立したパルチザンを装った極東共和国軍の部隊がチタへ侵入しました。9月15日にはネルチンスクの東ザバイカル労働者議会が革命委員会の樹立を宣言し、情勢は急速に変化しました。10月15日、日本軍がチタから撤兵すると、赤軍は白軍守備隊に降伏を要求しましたが、白軍はこれを拒否しました。しかし、10月19日から赤軍はチタへの進軍を開始し、10月22日にはチタを占領しました。10月25日、極東共和国政府はチタへ移転し、ロシア東方辺境政府は完全にその役割を終えました。

10月には臨時東ザバイカル議会はネルチンスク地方革命委員会との合同会議において解散を宣言し、極東共和国へと編入されました。このようにして、ロシア東方辺境は短期間で歴史の舞台から姿を消しました。

まとめ

ロシア東方辺境は、ロシア内戦という混乱期において、白軍残党勢力が日本軍の支援を受けて樹立した地方政府でした。しかし、極東共和国との対立、日本軍の撤兵という外部要因、そして内部の政治的混乱により、短期間で消滅しました。この政府の存在は、当時のロシア情勢の複雑さを象徴する出来事の一つと言えるでしょう。

もう一度検索