ロジェ気球

ロジェ気球：ガス気球と熱気球の融合

ロジェ気球は、ガス気球と熱気球の両方の仕組みを組み合わせた革新的な気球です。静的な浮力を得るガス気球と、熱で空気を温めて浮力を調整する熱気球の利点を融合することで、従来の気球では不可能だった長時間の飛行を実現しました。その名は、初めてこの複合気球による飛行に挑戦したフランス人、ピラートル・ド・ロジェに由来します。ロジェ気球は「ロジェール」と呼ばれることもあります。

ロジェ気球の仕組みと特徴

ロジェ気球は、上部に水素またはヘリウムガスで満たされたガス気球、下部に熱気球を備えています。ガス気球は主に浮力を担い、熱気球のバーナーは高度調整に使用されます。従来のガス気球では、浮揚ガスの放出やバラストの投棄による高度調整が必要でしたが、ロジェ気球ではバーナー操作のみで高度を維持できるため、操縦が容易です。

ガス気球が主要な浮力を供給するため、熱気球の燃料消費を抑えることができます。このため、数日から数週間におよぶ長期間の飛行に適しています。現代では、安全性の高いヘリウムガスとプロパンガスがそれぞれガス気球と熱気球に使用されており、世界一周などの長期無着陸飛行にも利用されています。

イギリス海峡横断飛行と悲劇

1780年代後半、熱気球やガス気球による有人飛行が成功を収め、イギリス海峡横断飛行も実現していました。ロジェは、この快挙に刺激を受け、フランスからイギリスへの逆ルート横断を計画します。

しかし、イギリス海峡は西風が卓越するため、逆ルートでは強い向かい風に遭う可能性が高く、危険を伴いました。そこでロジェは、ガス気球の浮力を温存しつつ、熱気球で高度を調整できるロジェ気球を考案しました。

気球の上部に水素ガス気球、下部に熱気球という構造で、熱気球に火を付けることで、高度の調整を可能としました。しかし、当時使用されていた水素ガスは可燃性であるため、ジャック・シャルルから危険性を指摘されていたにもかかわらず、ロジェは1785年6月15日、気球製作者のジュール・ローマンと共にフランスからイギリス海峡横断飛行に挑みます。

しかし、高度400メートルで熱気球が引火し、水素ガス気球にも燃え移り、気球は爆発、墜落しました。ロジェとローマンは、航空機史上初めての犠牲者となりました。

近年のロジェ気球

ロジェの悲劇の後、ロジェ気球は長い間忘れられていましたが、ヘリウムガスやプロパンガスの普及により、安全性が向上しました。1970年代以降、長時間の無着陸飛行において再び注目を集め、1999年にはベルトラン・ピカールとブライアン・ジョーンズがロジェ気球「ブライトリング オービター 3」で無着陸世界一周飛行に成功しました。2002年には、スティーブ・フォセットが単独での世界一周飛行を達成しています。

フィクションにおけるロジェ気球

ジュール・ヴェルヌの『気球に乗って五週間』では、ロジェ気球という名称は用いられていませんが、水素ガスの加熱による浮力調整と長時間飛行の可能性について言及されています。小説では、ガス引火対策として気球の完全密閉や、プラチナ製の加熱パイプが用いられています。

ロジェ気球は、その危険性と革新性を併せ持つ気球として、航空史に大きな足跡を残しました。技術の進歩によって安全性が確保され、再び長距離飛行に挑戦する手段として利用されています。

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