ジャック・シャルル

ジャック・シャルル：気球飛行のパイオニアとその功績

ジャック・アレクサンドル・セザール・シャルル (1746年 - 1823年) は、フランスの発明家、物理学者、数学者であり、そして気球乗りとして名高い人物です。彼の名は、気体の熱膨張に関する法則「シャルルの法則」として、今もなお科学史に刻まれていますが、それ以上に、彼は世界で初めて水素気球による有人飛行を成功させた人物として知られています。

世界初の水素 気球と有人飛行

シャルルは、17世紀のボイルの法則や、同時代の科学者たちの研究成果を基に、水素が気球を浮揚させるのに最適なガスであると着想しました。彼は独自の気球を設計し、ロベール兄弟という熟練の職人たちに製作を依頼。パリの工房で、軽くてガスが漏れない気球の製作に取り組みました。彼らは、ゴムをテレピン油に溶かし、絹のシートに塗布するという、当時としては革新的な製法を考案。完成した気球は、当初の赤と白から、ゴムを塗布したことで赤と黄色に彩られた、美しいものでした。

1783年8月27日、シャルルとロベール兄弟は、シャン・ド・マルス公園（現在のエッフェル塔がある場所）で、世界初となる水素気球の飛行実験を行いました。この実験には、当時77歳だったベンジャミン・フランクリンも観衆として訪れていました。この最初の気球は、直径約4メートル、体積33立方メートルと小型で、持ち上げられる重量もわずか9キロほどでしたが、それでも人類初の快挙となりました。水素の生成には、0.25トンの硫酸を0.5トンの鉄くずに反応させる方法が用いられました。生成された水素は鉛管を通して気球に充填されましたが、冷却工程を省いたため、熱い水素が気球に注入され、冷却によって収縮したことから、気球を膨らませるのに苦労したエピソードも残っています。

気球は北へ飛行し、約45分後に21キロメートル離れたゴネスに着陸しました。しかし、その着陸は、村人たちが気球を恐れ、熊手やナイフで引き裂いてしまったという、やや残念な結末となりました。このプロジェクトの資金は、Barthelemy Faujas de Saint-Fondという人物が、大勢の人々から寄付を集めて賄われました。

わずか数ヶ月後の1783年12月1日、シャルルはロベール兄弟とともに、パリのテュイルリー宮殿から、さらに大規模な有人水素気球による飛行に挑戦しました。これは、モンゴルフィエ兄弟による熱気球有人飛行成功のわずか10日後でした。380立方メートルの水素気球には、シャルルとニコラ＝ルイ・ロベールが搭乗。高度調整のために砂を入れた袋をバラストとして使用し、約550メートルの高度にまで上昇しました。2時間5分間の飛行の後、ネル＝ラ＝ヴァレに着陸するまでの飛行距離は36キロメートルに及んだと記録されています。

この飛行の後、シャルルは再び単独で気球に乗り、約3000メートルの高度まで上昇するという、驚きの飛行を敢行しました。気球は高度を調整するためのバルブを備えており、バルブ操作により高度を調整していました。最終的に約3キロメートル離れたトゥール・デュ・レイに安全に着陸しました。この飛行の様子は40万人もの人々によって目撃され、資金提供者らには特等席が提供されました。中には、アメリカ合衆国大使だったベンジャミン・フランクリンも含まれていました。シャルルは、尊敬するジョセフ・モンゴルフィエにも飛行を招待し、気球を用いた上空の風向調査も行わせています。

その後の活動とシャルルの法則

その後、シャルルとロベール兄弟は、ジャン＝バティスト・ムーニエの提案による、操縦機構付きの飛行船の開発にも着手しましたが、シャルル自身は搭乗しませんでした。この飛行船は空気房を採用し、推進機構と舵を備えていましたが、その操縦性能は期待外れでした。いくつかの飛行実験が行われましたが、操縦機構の不備やガス放出バルブの欠如などから、いくつかの事故も発生しました。それでも、これらの実験は後の飛行船開発に重要な知見を与えました。

水素気球は熱気球に比べて効率的であったため、その後急速に普及していきました。しかし、水素の引火爆発の危険性から、現在ではヘリウム気球に取って代わられています。最初の航空事故は、水素気球と熱気球の複合気球を使ったドーバー海峡横断飛行で発生しました。シャルルは複合気球での火気使用の危険性を警告していましたが、無視された結果、悲劇的な事故となってしまいました。

シャルルは、気球のガス放出バルブや液体比重計、反射式角度計など、様々な発明も手掛けています。また、彼は気体の熱膨張に関する実験を行い、その成果は後年、ゲイ＝リュサックによって「シャルルの法則」として発表されました。この法則は、定圧下では理想気体の体積が絶対温度に比例するというものです。シャルル自身は、5つの風船に異なる気体を入れ、温度を上げて実験を行い、その結果からこの法則の基礎となるデータを得ていました。

私生活とその後

シャルルはサントル地域圏で生まれ、自身より37歳年下の女性と結婚しました。彼の妻は、詩人アルフォンス・ド・ラマルティーヌに恋情を抱かれたという逸話も残っています。ラマルティーヌの有名な詩集『瞑想詩集』は、この女性との出会い、そして死別を基に書かれたと言われています。シャルルは妻より長生きし、1823年にパリで亡くなりました。ネル＝ラ＝ヴァレには、彼の最初の有人飛行を記念する石碑が建立されています。シャルルの功績は、気球という乗り物の開発にとどまらず、科学的発見、発明、そしてその後の航空技術の発展に多大な影響を与えたと言えるでしょう。

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