ロジャー・フライ

イギリスの画家、そして影響力のある芸術批評家であったロジャー・フライ（Roger Eliot Fry）は、1866年12月14日にロンドンに生を受け、1934年9月9日にその生涯を終えました。彼は、20世紀初頭のイギリスを代表する知識人グループであるブルームズベリー・グループの主要メンバーの一人としても知られています。

生涯と活動

フライは、ケンブリッジ大学のキングス・カレッジで学びました。大学在学中に、優れた知性を持つ学生たちが集まる秘密結社、ケンブリッジ使徒会に迎え入れられました。当初は自然科学の分野で初期の成績を収めましたが、後に芸術へと関心を移しました。パリやイタリアへと赴き、特にイタリア美術史の研究に深く取り組みました。この美術研究を経て、彼は風景画家としての道を歩み始めます。

しかし、ロジャー・フライの功績として特に語られるのは、芸術批評家および企画者としての活動です。彼は、当時大陸で台頭しつつあった新しい美術動向、特にポスト印象派の価値をいち早く認識しました。1910年、彼はブルームズベリー・グループの仲間たちと共に、ロンドンで歴史的な「マネとポスト印象派展」（Manet and the Post-Impressionists）を企画・開催しました。この展覧会では、エドゥアール・マネに加え、ポール・セザンヌ、ポール・ゴーギャン、フィンセント・ファン・ゴッホといった、当時のイギリスではまだ一般的に理解されていなかったり、異端視されたりしていた画家たちの作品が紹介されました。個人的に親しい関係にあった慈善活動家オットリン・モレルの後援も得て実現したこの試みは、保守的な傾向が強かった当時のイギリス美術界に大きな波紋を投げかけ、現代美術への関心を喚起する決定的なきっかけとなりました。

さらに、芸術と生活の融合を目指した実践的な活動も行いました。1913年には、「オメガ・ワークショップ（Omega Workshop）」という名称のデザイン工房を設立しました。この工房は、芸術家が家具、テキスタイル、陶器などのデザインを手がけ、日用品に芸術的な感性を取り入れることを目指したものです。ブルームズベリー・グループ周辺の多くの芸術家たちがここに集まり、活動を展開しました。画家であるヴァネッサ・ベルやダンカン・グラント（当時、ヴァネッサ・ベルと親密な関係にあった）も、この工房で重要な役割を果たしました。フライの豊かな生涯と活動は、後にヴァネッサ・ベルの妹であり、著名な作家であるヴァージニア・ウルフによって、『ロジャー・フライ伝』として詳細に書き記されています。

主要著作

ロジャー・フライは多くの芸術批評に関する著作を残しており、その洞察力と理論は後世の美術批評に大きな影響を与えました。代表的な著作には以下のようなものがあります。

『ヴィジョンとデザイン』 （Vision and Design, 1920年）
『Transformations』 （1926年）
『セザンヌ論　その発展の研究』 （Cézanne. A Study of His Development, 1927年）
『Henri Matisse』 （アンリ・マティス論, 1930年）
『French Art』 （1932年）
『Reflections on British Painting』 （1934年）

特に『ヴィジョンとデザイン』や『セザンヌ論』は、美術批評における重要な古典として今日でも読み継がれています。

作品

画家としてのロジャー・フライは、主に風景画を制作しました。彼の絵画作品には、ポスト印象派から受けた影響が見られ、色彩豊かな表現や、対象の形態よりも感覚的な側面を重視する傾向が特徴です。批評家としての名声に隠れがちですが、画家としての探求も生涯を通じて続けました。

関連人物

ケンブリッジ大学時代には、政治学者・哲学者であるゴールズワージー・ロウズ・ディキンソンといった、後に各分野で活躍する同時代の知識人たちと交流を深めました。これらの初期の知的交流は、後のブルームズベリー・グループでの活動基盤を形成する上で重要な要素となったと考えられます。

ロジャー・フライは、画家、芸術批評家、企画者として、20世紀初頭のイギリス美術界において革新的な役割を果たし、特にポスト印象派の受容と普及に大きく貢献しました。彼の思想と活動は、現代美術の発展を理解する上で不可欠なものとなっています。

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