ロス・ウルブリヒト

ロス・ウィリアム・ウルブリヒト（Ross William Ulbricht, 1984年3月27日 - ）は、アメリカの元麻薬売買人で、ダークネット市場「シルクロード」の創設者兼運営者として知られています。2011年に開設されたシルクロードは、匿名性の高いTorネットワークとビットコインを利用した違法取引プラットフォームで、麻薬、ハッキングツール、偽造文書などが取引されていました。ウルブリヒトは「ドレッド・パイレーツ・ロバーツ（Dread Pirate Roberts）」という偽名を使って運営を行っていました。

若年期と教育

ウルブリヒトはテキサス州オースティンで育ち、ボーイスカウトの最高位であるイーグルスカウトを取得しました。ウェスト・リッジ中学校、ウェストレイク高校を経て、テキサス大学ダラス校で物理学の学士号を取得後、ペンシルベニア州立大学で材料工学の修士課程に進学しました。大学時代には、リバタリアニズムの経済理論に強い関心を持つようになり、特にルートヴィヒ・フォン・ミーゼスの哲学に傾倒しました。卒業後、ウルブリヒトは起業家精神を発揮し、いくつかの事業を試みましたが、いずれも成功には至りませんでした。

シルクロードの設立と運営

2009年頃からウルブリヒトは、Torネットワークとビットコインを用いたオンラインブラックマーケットの構想を温めていました。Torは、IPアドレスを隠蔽し、匿名性を高めるためのプロトコルであり、ビットコインは、取引の匿名性を確保できる暗号通貨です。シルクロードの運営に際し、ウルブリヒトは「ドレッド・パイレーツ・ロバーツ」という名前を使用しましたが、このアカウントを彼一人が利用していたのかについては議論があります。

ウルブリヒトは、2010年に「Good Wagon Books」というオンライン古書店を運営する傍ら、シルクロードの開発に着手しました。彼は、日記の中で2011年を「繁栄の年」と予測しており、シルクロードを通じて経済理論を実践し、「組織的な力の行使がない世界」を実現したいと考えていました。しかし、ナサニエル・ポッパーは、ウルブリヒトが大学卒業後の事業失敗で資金を使い果たし、自暴自棄になった結果がシルクロードの創設だったと述べています。

逮捕と裁判

2013年中頃、国税庁の調査官ゲイリー・アルフォードは、ウルブリヒトが「ドレッド・パイレーツ・ロバーツ」と関連があることを突き止めました。同年10月、ウルブリヒトはサンフランシスコ公立図書館でFBIに逮捕されました。逮捕時、ウルブリヒトが使用していたノートパソコンのデータを暗号化または削除しようとするのを防ぐため、捜査官たちは口論する恋人同士を装い、気を逸らしている間に、別の捜査官がコンピュータを押収し、データを複製しました。

ウルブリヒトは、資金洗浄、コンピュータハッキング、麻薬取引の共謀などの罪で起訴され、さらに殺人周旋の罪にも問われました。殺人周旋罪は最終的に起訴から除外されましたが、ウルブリヒトの判決には影響を与えました。2015年2月、ウルブリヒトはすべての罪で有罪となり、同年5月29日に仮釈放なしの終身刑を宣告されました。検察側は6件の殺人周旋契約のうち、実際に殺人が実行された証拠はなかったと主張しました。

有罪判決後

ウルブリヒトの弁護士は、検察がシルクロードの捜査に関わったDEA捜査官の不正行為の証拠を不当に隠蔽していると主張し、控訴しました。しかし、2017年5月31日、合衆国第2巡回区控訴裁判所は、ウルブリヒトの控訴を棄却し、有罪判決と終身刑を支持しました。ウルブリヒトは、捜査官の汚職を考慮すべきであり、刑罰が過酷すぎると訴えましたが、認められませんでした。

投獄と恩赦

ウルブリヒトは、ニューヨークのメトロポリタン矯正センターに収監された後、フローレンス・ハイ連邦刑務所に移送されました。しかし、2025年1月21日、ドナルド・トランプ大統領によって恩赦されました。トランプ大統領は以前からウルブリヒトの減刑を支持しており、彼の量刑は不当だと述べていました。

ウルブリヒトの事件は、インターネットの匿名性や、デジタル犯罪における法的責任の問題を提起し、社会に大きな影響を与えました。彼の事件は、ダークネットや暗号通貨に関する議論を活発化させ、オンラインプライバシーやセキュリティに対する意識を高めるきっかけとなりました。

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