ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス

ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス：20世紀を代表する経済学者

ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス (1881-1973) は、オーストリア＝ハンガリー帝国（現在のウクライナ）で生まれた経済学者です。ウィーン大学で法学を修めた後、カール・メンガーの『経済学原理』に触発され、経済学の道へ進みました。オーストリア商工会議所勤務やウィーン大学教授などを経て、1940年にはアメリカ合衆国へ亡命。ニューヨーク大学教授として活躍し、1969年に退官しました。

学問的貢献

ミーゼスの経済学における貢献は多岐に渡ります。彼は、オーストリア学派の伝統を受け継ぎつつ、独自の理論体系を構築しました。その中心となるのは、個人の主観的価値判断に基づく経済行動分析です。

1. 貨幣と信用理論

代表作『貨幣と銀行信用の理論』(1912年)では、通貨の価値が需要と供給によって決定されることを、循環論法に陥ることなく明らかにしました。彼の「遡及定理」と呼ばれる独自の理論は、貨幣の発生過程を歴史的に遡及することで、通貨価値の決定メカニズムを解明したものです。

2. 経済計算論争と計画経済批判

ミーゼスは、計画経済を鋭く批判しました。彼の主張は、社会主義経済においては、市場メカニズムが欠如しているため、効率的な資源配分が不可能であるというものです。有名な「経済計算論争」において、彼は、市場価格という情報伝達手段がない社会主義経済では、生産財の合理的価格付けが不可能であり、経済的な合理性を欠いた結果、経済は停滞すると主張しました。

3. 介入主義批判

ミーゼスは、政府による経済への介入（介入主義）にも反対しました。彼は、政府の介入は、必ずしも意図した効果をもたらさず、かえって経済を悪化させることが多いと主張しました。市場経済への介入は、その解決のための更なる介入を招き、最終的には全体主義的な社会主義体制へと導くと警鐘を鳴らしました。

4. 自由主義思想への貢献

ミーゼスは、自由主義的な立場から、社会主義やファシズムを批判しました。彼の思想は、フリードリヒ・ハイエクを始めとする多くの経済学者に大きな影響を与え、現代自由主義思想の発展に大きく貢献しました。特に『社会主義—経済学社会学的研究』(1922年)は、多くの社会主義者に自由主義への転向を促すきっかけとなりました。彼はファシズムを左翼に位置づけ、ロシア型社会主義とドイツ型社会主義（ファシズム）を明確に区別した上で批判を行った、数少ない経済学者の1人です。

5. 方法論

ミーゼスは、ドイツ西南学派の歴史哲学の影響を受け、オーストリア学派独特の演繹的・個人主義的方法論を体系化しました。「人間は行為する」という基本的な命題から出発し、厳密な論理に基づいて経済理論を展開しました。

影響と評価

ミーゼスの著作は、世界中の経済学者に大きな影響を与え続けました。ミルトン・フリードマンやライオネル・ロビンズといった著名な経済学者も、ミーゼスの業績を高く評価しています。ニューヨーク大学とフライブルク大学から名誉博士号を授与されたほか、数々の賞を受賞しています。彼の多くの著作は、現在もインターネット上で無料で閲覧可能です。彼の弟子であるハイエクがノーベル[[経済学賞]]を受賞したことは、ミーゼスの業績の重要性を示すものと言えるでしょう。

主要著作

ミーゼスは多数の著作を残しており、その多くが日本語に翻訳されています。代表的な著作として、『貨幣と銀行信用の理論』『社会主義』『ヒューマン・アクション』などがあります。彼の著作は、現代の経済問題を考える上で、依然として重要な示唆を与え続けています。彼の生涯と業績は、イスラエル・カーズナー著『ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス　生涯とその思想』に詳しいです。

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