ロッキー・グラジアノ

アメリカ合衆国出身の元プロボクサー、ロッキー・グラジアノ（本名トーマス・ロッコ・バルベラ、1919年1月1日 - 1990年5月22日）は、世界ミドル級の頂点を極めたチャンピオンです。その波乱に富んだ人生は、ロバート・ワイズ監督、ポール・ニューマン主演の不朽の名作、映画『傷だらけの栄光』（原題：SOMEBODY UP THERE LIKES ME）のモデルとして広く知られています。

ニューヨークのイーストサイドで、イタリア系移民の貧しい大家族の一員として生まれたグラジアノは、自身を含め10人の兄弟と共に育ちました。父親もかつてボクサーでしたが、彼の幼少期から青年期は、街のトラブルメーカーとして問題行動を繰り返し、荒んだ日々を送ります。少年時代から20歳になるまでの約8年間を、更生施設や刑務所で過ごすという極めて異例の経歴を持ち、徴兵で陸軍に入隊した際も、上官への暴力事件を起こして脱走するなど、まさに「札付きの悪」でした。

しかし、親しい不良仲間が悲劇的な死を遂げたこと、そして後に生涯の伴侶となるノーマとの運命的な出会いが、彼の人生を大きく転換させます。これらの出来事を機に更生を決意したグラジアノは、ボクシングに活路を見出します。天性の度胸と驚異的なタフネスに加え、特に右フックに代表される破壊力抜群のパンチを武器に、相手に真っ向から立ち向かう獰猛なインファイトスタイルを確立しました。アマチュアで実績を積んだ後プロへ転向すると、名マネージャー、アービン・コーヘンの手腕もあり、当時の注目選手だったビリー・アーノルドに逆転KO勝利するなど、順調にキャリアを築いていきます。この頃には、一部にマフィアが関与した八百長疑惑も囁かれる試合があったとされています。

グラジアノのキャリアにおいて最も語り草となっているのは、当時の世界ミドル級王者トニー・ゼールとの壮絶な三番勝負でしょう。軍役によるブランクがあった王者に対し、9歳若い挑戦者として挑んだ1946年9月27日の第一戦は、両者がダウンを奪い合う激しい展開となります。グラジアノが優位に進める時間帯もあったものの、最終的に6回、ゼールの強烈な右ボディアッパーからの左フックでKO負けを喫しました。

翌1947年7月16日に行われたリマッチは、序盤ゼールが主導権を握り、グラジアノは目の上をカットする苦戦を強いられます。しかし5回から反撃を開始すると、6回に得意の右フックでゼールからダウンを奪取。立ち上がった王者に対し、ロープ際で猛攻を仕掛け、レフェリーストップによるKO勝利を収め、遂に世界ミドル級王座を獲得しました。後に映画『傷だらけの栄光』はこの劇的な勝利で幕を閉じます。

しかし、現実世界での両者の物語はまだ終わりませんでした。1948年6月10日、三度目の対戦が行われます。王者としてリングに上がったグラジアノでしたが、初回にゼールの左フックでいきなりダウン。2回以降もゼールが攻勢を続け、3回、ゼールが得意とする右ボディから切り返しの左フックがグラジアノの顎に炸裂。崩れ落ちたグラジアノは立ち上がることができず、KO負け。激しい死闘はゼールの2勝1敗で決着しました。

王座を失った後も、グラジアノの闘志は衰えませんでした。1952年4月16日、ボクシング史上に輝く天才シュガー・レイ・ロビンソンが持つミドル級王座に挑戦しますが、全盛期を迎えていたロビンソンには歯が立たず、3回、ロープ際で浴びせられた左フックからの右ストレートでKO負けを喫します。

1956年、彼の波乱の半生とゼールとの激闘を描いた映画『傷だらけの栄光』が公開され、この作品の大ヒットにより、グラジアノはボクサー引退後、ショービジネスの世界でも成功を収めました。

彼の公式戦績は83戦67勝（52KO）10敗6分。KO率の高さからも、そのアグレッシブなファイトスタイルが窺えます。ロッキー・グラジアノは、リング上の激闘だけでなく、どん底から這い上がった不屈の人間ドラマによって、今なお多くの人々の記憶に残るボクサーです。

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