ロッチデール先駆者協同組合
ロッチデール先駆者協同組合（Rochdale Pioneers Co-operative）は、1844年12月21日に英国ランカシャー州ロッチデール（マンチェスター近郊）で最初の店舗を開設した、協同組合運動における極めて重要な存在です。「ロッチデール公正先駆者組合（The Rochdale Society of Equitable Pioneers）」とも呼ばれ、その後の協同組合の発展に大きな影響を与えました。他の協同組合との統合を経て、その歴史は現在のThe Co-operative Groupへと継承されています。日本では「ロッチデール組合」や「ロッチデール公正開拓者組合」などの名称で知られています。
この組合が生まれた直接的な要因は、当時の英国産業社会における労働者たちの過酷な状況でした。彼らはしばしば減給に直面し、日常生活に欠かせない食料品や衣料品の品質は劣悪で、取引においても公正さが欠けていました。このような厳しい現実の中、労働者たちは自らの生活を改善するための手段を模索しました。
当時の英国では、ロバート・オウエンの社会主義思想に基づき、労働組合に代わるものとして協同組合的な企業を組織しようとする動きが多数見られましたが、その多くは経営難などから短命に終わっていました。ロッチデール先駆者組合の創立者たちは、これらの先行する組合の失敗（特に掛け売りによる債権回収不能など）から学び、より現実的で持続可能な運営方法を追求しました。
1844年8月15日、28人の「先駆者」によって創立が宣言されました。彼らはオウエンの思想の空想的な要素を排し、具体的な計画を掲げました。
当初の計画は以下の通りです。
組合の販売店を設け、日用品や衣類を取り扱う。
組合員の住居を確保し、生活環境の改善を図る。
失業した組合員や貧困に苦しむ組合員のために製造事業を始める。
組合員が自らの利益と安全を守るために耕すことができる土地を所有または借りる。
生産、分配、教育、政治など、組合員のための様々な機関を整備する。
これらの計画は、最終的には組合員や協力者たちが自給自足できる村を建設し、同じ目的を持つ他の組合を支援することを目指していました。
ロッチデール先駆者組合が、先行する多くの組合と異なり、持続的な運営を成功させた理由はいくつかの特徴的な運営方法にありました。これらは当時の他の協同組合でも見られた要素ですが、ロッチデールにおいて体系化され、後の模範となりました。
購買高による剰余金の分配（パトロネージ配当）：組合の事業で生じた剰余金は、出資額ではなく、組合員の購買額に応じて公平に還元されました。これは利益を上げた者（購買者）に還元されるべきだという考えに基づいています。
品質の維持：当時の市場では、粗悪品や量のごまかしが横行していました。組合は正直な商売を心がけ、商品の品質維持に努めました。
市価での取引：商品を安売り競争に巻き込まず、適正な市価で販売しました。これにより、商品の品質を保ちつつ、剰余金を生み出して組合員に分配することが可能となりました。
現金での販売制度：当時の労働者の多くは、小売店での掛け売りによって常に借金を抱えていました。組合は現金取引を義務付け、組合員を負債から解放し、信用取引に伴うリスクを回避しました。
民主的管理：組合の運営は組合員による民主的な方法で行われました。組合員は一人一票の投票権を持ち、平等に参加できました。
政治的・宗教的中立：組合は特定の政治や宗教に偏らず、組合員の思想や信仰の自由を尊重しました。
教育の推進：組合は単なる経済的な互助組織ではなく、組合員の社会的・知的向上も重要な目的としました。剰余金の一部を教育費に充て、新聞閲覧室、図書館、講演会、組合員の子女向けの教育機会などを提供しました。1854年には本店に新聞閲覧室が開設され、検閲なしに情報に触れる機会が提供されました。1861年には蔵書が5千冊に達し、顕微鏡や望遠鏡の貸し出しも行われるなど、積極的な教育活動が行われました。
ロッチデール先駆者協同組合の長年の運営経験と組合員による議論から導き出された運営原則は、後に「ロッチデール原則」として体系化され、世界の協同組合運動の規範となりました。1937年、国際協同組合同盟（ICA）のパリ大会で公式に承認された際の7原則は以下の通りです。
1. 公開の原則 (Open Membership)
2. 民主的運営の原則（一人一票制）(Democratic Control)
3. 利用高比例割戻の原則 (Distribution of the surplus in proportion to transactions)
4. 出資金利子制限の原則 (Limited Interest on Capital)
5. 政治的・宗教的中立の原則 (Political and Religious Neutrality)
6. 現金取引の原則 (Cash Trading)
7. 教育活動促進の原則 (Promotion of Education)
これらの原則のうち、最初の5つは協同組合の理念や精神に関わるもの、残りの2つは事業運営の方法に関わるものとされています。時代の変化に伴い、これらの原則は1966年や1995年などに改訂されています。例えば、政治的・宗教的中立の原則は、特定の政治体制下の協同組合との関係性を巡る議論を経て、1966年の改訂で削除されました。
1843年：ロッチデールで大規模なストライキが発生し、労働者の生活環境が悪化。
1844年8月15日：28人の「先駆者」により組合創立を宣言。資金を積み立てる。
1844年12月21日：最初の店舗を開設。小麦粉、バター、砂糖、オートミールのみを販売開始。
1846年10月：食肉の取り扱いを開始。
1847年：衣料品の取り扱いを開始。
1849年8月：新聞・雑誌の取り扱いを開始。
1850年：製粉事業を開始。組合総会で議論の自由を保障する決議。
1852年：製靴、木靴、仕立物の生産・取り扱いを開始。
1855年：卸売部門を設置。ヨークシャー、ランカシャーの他組合へ商品供給を開始。紡績・毛織物を扱う生産組合を設立。
1857年：ジョージ・ヤコブ・ホリョークの紹介により国際的に知られるようになる。
1861年：図書館蔵書が5千冊に達する。
1976年：オルダム生協と合併し、パイオニア生協となる。
* 2007年：The Co-operative Group Limitedに吸収され、その系譜が受け継がれる。
ロッチデール先駆者協同組合は、困難な社会状況の中で、労働者自身の手によるより良い生活の実現を目指し、その経験から生まれた原則は今日の協同組合運動の礎となっています。
創立の背景
この組合が生まれた直接的な要因は、当時の英国産業社会における労働者たちの過酷な状況でした。彼らはしばしば減給に直面し、日常生活に欠かせない食料品や衣料品の品質は劣悪で、取引においても公正さが欠けていました。このような厳しい現実の中、労働者たちは自らの生活を改善するための手段を模索しました。
当時の英国では、ロバート・オウエンの社会主義思想に基づき、労働組合に代わるものとして協同組合的な企業を組織しようとする動きが多数見られましたが、その多くは経営難などから短命に終わっていました。ロッチデール先駆者組合の創立者たちは、これらの先行する組合の失敗（特に掛け売りによる債権回収不能など）から学び、より現実的で持続可能な運営方法を追求しました。
創立宣言と理念
1844年8月15日、28人の「先駆者」によって創立が宣言されました。彼らはオウエンの思想の空想的な要素を排し、具体的な計画を掲げました。
当初の計画は以下の通りです。
組合の販売店を設け、日用品や衣類を取り扱う。
組合員の住居を確保し、生活環境の改善を図る。
失業した組合員や貧困に苦しむ組合員のために製造事業を始める。
組合員が自らの利益と安全を守るために耕すことができる土地を所有または借りる。
生産、分配、教育、政治など、組合員のための様々な機関を整備する。
これらの計画は、最終的には組合員や協力者たちが自給自足できる村を建設し、同じ目的を持つ他の組合を支援することを目指していました。
持続的な運営を可能にした特徴
ロッチデール先駆者組合が、先行する多くの組合と異なり、持続的な運営を成功させた理由はいくつかの特徴的な運営方法にありました。これらは当時の他の協同組合でも見られた要素ですが、ロッチデールにおいて体系化され、後の模範となりました。
購買高による剰余金の分配（パトロネージ配当）：組合の事業で生じた剰余金は、出資額ではなく、組合員の購買額に応じて公平に還元されました。これは利益を上げた者（購買者）に還元されるべきだという考えに基づいています。
品質の維持：当時の市場では、粗悪品や量のごまかしが横行していました。組合は正直な商売を心がけ、商品の品質維持に努めました。
市価での取引：商品を安売り競争に巻き込まず、適正な市価で販売しました。これにより、商品の品質を保ちつつ、剰余金を生み出して組合員に分配することが可能となりました。
現金での販売制度：当時の労働者の多くは、小売店での掛け売りによって常に借金を抱えていました。組合は現金取引を義務付け、組合員を負債から解放し、信用取引に伴うリスクを回避しました。
民主的管理：組合の運営は組合員による民主的な方法で行われました。組合員は一人一票の投票権を持ち、平等に参加できました。
政治的・宗教的中立：組合は特定の政治や宗教に偏らず、組合員の思想や信仰の自由を尊重しました。
教育の推進：組合は単なる経済的な互助組織ではなく、組合員の社会的・知的向上も重要な目的としました。剰余金の一部を教育費に充て、新聞閲覧室、図書館、講演会、組合員の子女向けの教育機会などを提供しました。1854年には本店に新聞閲覧室が開設され、検閲なしに情報に触れる機会が提供されました。1861年には蔵書が5千冊に達し、顕微鏡や望遠鏡の貸し出しも行われるなど、積極的な教育活動が行われました。
ロッチデール原則の確立
ロッチデール先駆者協同組合の長年の運営経験と組合員による議論から導き出された運営原則は、後に「ロッチデール原則」として体系化され、世界の協同組合運動の規範となりました。1937年、国際協同組合同盟（ICA）のパリ大会で公式に承認された際の7原則は以下の通りです。
1. 公開の原則 (Open Membership)
2. 民主的運営の原則（一人一票制）(Democratic Control)
3. 利用高比例割戻の原則 (Distribution of the surplus in proportion to transactions)
4. 出資金利子制限の原則 (Limited Interest on Capital)
5. 政治的・宗教的中立の原則 (Political and Religious Neutrality)
6. 現金取引の原則 (Cash Trading)
7. 教育活動促進の原則 (Promotion of Education)
これらの原則のうち、最初の5つは協同組合の理念や精神に関わるもの、残りの2つは事業運営の方法に関わるものとされています。時代の変化に伴い、これらの原則は1966年や1995年などに改訂されています。例えば、政治的・宗教的中立の原則は、特定の政治体制下の協同組合との関係性を巡る議論を経て、1966年の改訂で削除されました。
歩み（主要年表）
1843年：ロッチデールで大規模なストライキが発生し、労働者の生活環境が悪化。
1844年8月15日：28人の「先駆者」により組合創立を宣言。資金を積み立てる。
1844年12月21日：最初の店舗を開設。小麦粉、バター、砂糖、オートミールのみを販売開始。
1846年10月：食肉の取り扱いを開始。
1847年：衣料品の取り扱いを開始。
1849年8月：新聞・雑誌の取り扱いを開始。
1850年：製粉事業を開始。組合総会で議論の自由を保障する決議。
1852年：製靴、木靴、仕立物の生産・取り扱いを開始。
1855年：卸売部門を設置。ヨークシャー、ランカシャーの他組合へ商品供給を開始。紡績・毛織物を扱う生産組合を設立。
1857年：ジョージ・ヤコブ・ホリョークの紹介により国際的に知られるようになる。
1861年：図書館蔵書が5千冊に達する。
1976年：オルダム生協と合併し、パイオニア生協となる。
* 2007年：The Co-operative Group Limitedに吸収され、その系譜が受け継がれる。
ロッチデール先駆者協同組合は、困難な社会状況の中で、労働者自身の手によるより良い生活の実現を目指し、その経験から生まれた原則は今日の協同組合運動の礎となっています。
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