ロデオの恋人

1968年に発表されたザ・バーズの通算6作目となるスタジオ・アルバム『ロデオの恋人』（Sweetheart of the Rodeo）は、彼らのキャリアにおいて大きな転換点となった作品です。

前作『名うてのバード兄弟』のレコーディング期間中にデヴィッド・クロスビーが、完成後にはドラマーのマイケル・クラークがバンドを去り、バーズは中心メンバーであるロジャー・マッギン（ギター）とクリス・ヒルマン（ベース）の二人だけになってしまいました。バンドの存続が危ぶまれる状況の中、彼らは新たなメンバーを迎え入れます。クリス・ヒルマンの従兄弟で、ライ・クーダーやタジ・マハールとの活動経験を持つドラマーのケヴィン・ケリー、そして、当時インターナショナル・サブマリン・バンドで活動していたグラム・パーソンズです。

特にグラム・パーソンズの加入は、アルバムの方向性を決定づけることになります。パーソンズは、ロック・シーンにおいてカントリー・ミュージックの要素を取り入れることの重要性を強く主張しており、カントリー音楽に対する深い造詣と情熱を持っていました。マッギンは当初、彼を単にキーボード奏者として迎えたに過ぎませんでしたが、パーソンズは加入後すぐに、カントリー音楽の中心地であるナッシュビルでのレコーディングを強く推し進めました。結果として、本作の制作はパーソンズの意向に大きく左右される形となり、彼のカントリーへの傾倒がアルバム全体に反映されることになります。

ナッシュビルで録音された本作は、それまでのバーズのサウンドとは一線を画す、純粋なカントリー・サウンドとロックの感覚が融合した、まさにカントリーロックの先駆的な作品となりました。このアルバムによって、バーズはサイケデリックやフォークロックのイメージに加え、カントリーロックの重要バンドとしての地位を確立することになります。

しかし、制作過程は順風満帆ではありませんでした。カントリー志向を巡ってパーソンズとマッギンの間に音楽的な対立が生じ、さらにメンバーチェンジも続きました。グラム・パーソンズはアルバムのリリースを待たずにバーズを脱退。後にクリス・ヒルマンらと共に、カントリーロックを代表するバンド、フライング・ブリトー・ブラザーズを結成し、このジャンルを全米に広めていきます。一方、ケヴィン・ケリーも、当時バーズの準メンバーだったクラレンス・ホワイトが彼の演奏に難色を示したことから、ホワイトの推薦によりジーン・パーソンズと交代させられることになりました。

さらに、アルバム発表時には予期せぬ問題が発生します。グラム・パーソンズがバーズ加入以前に所属していたインターナショナル・サブマリン・バンドとの契約がまだ有効であったため、バーズの所属レーベルであるコロムビアは法的なトラブルを回避するため、パーソンズのリードボーカルを差し替えるよう指示しました。これにより、当初パーソンズが歌う予定だった多くの楽曲が、マッギンやヒルマンによって歌い直されるという事態が生じ、パーソンズにとっては非常に不本意な結果となりました。最終的に、彼のリードボーカルがそのまま収録されたのはわずか3曲に留まっています。

このように様々な困難を経て完成した『ロデオの恋人』は、商業的な成功は限定的でしたが、後の音楽シーンに与えた影響は計り知れません。カントリーとロックの垣根を取り払ったその音楽性は、イーグルスなど多くの後続アーティストに道を開きました。音楽雑誌『ローリング・ストーン』が選ぶ「歴代最高のアルバム500選」でも274位にランクインするなど、その革新性と歴史的重要性は今日でも高く評価されています。

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