ロバチェフスキー賞

ロバチェフスキー賞とロバチェフスキーメダル

ロバチェフスキー賞（露: Премия имени Н. И. Лобачевского、英: Lobachevsky Prize）およびロバチェフスキーメダル（露: Медаль имени Н. И. Лобачевского、英: Lobachevsky Medal）は、非ユークリッド幾何学の創始者の一人として知られる偉大な数学者、ニコライ・ロバチェフスキー（N. I. Lobachevsky）の功績を記念し、その栄誉を称えるために設けられた権威ある賞です。これらは主に数学、特に幾何学分野における傑出した貢献に対して贈られ、それぞれ歴史的に異なる経緯を経て、現在ではロシア科学アカデミーとカザン大学から授与されています。

ロバチェフスキー賞の創設と初期

ロバチェフスキー賞の始まりは19世紀末に遡ります。生涯の大半をカザン大学で過ごし、その地で不朽の業績を残したロバチェフスキーを顕彰するため、1896年にカザン物理・数学協会によって創設されました。第一回の授与は翌年の1897年に行われ、ノルウェーの数学者ソフス・リーが受賞しています。この賞は、ロシア国内外を問わず、幾何学分野で優れた研究を行った数学者を対象としていました。

ソヴィエト時代の変遷

しかし、1917年の十月革命とその後の動乱、そして第二次世界大戦の影響により、賞の授与は長らく停滞しました。革命から第二次世界大戦終結までの期間には、1927年と1937年の二度しか授与が実施されませんでした。戦後、賞の運営体制は大きく変わります。1947年、ソヴィエト連邦閣僚会議の決定により、ロバチェフスキー賞の授与はソヴィエト連邦科学アカデミーの管轄へと移管されました。この法令では、賞を国内外の傑出した数学者を対象とする「国際的なロバチェフスキー賞」と、ソヴィエト国内の研究者を対象とする「佳作賞」の二部門に分け、原則として5年ごとに授与することが定められました。その後、国際的な賞については、1956年のソ連政府会議の決定により、授与頻度が3年ごとへと変更されています。なお、1947年の法令では、アカデミーがカザン大学と協議して選考を進めるべきとされていたものの、実際の運用においては、この協力体制が十分に機能しなかったとする指摘も存在します。

ロシア連邦成立後

1991年のソヴィエト連邦崩壊に伴い、ソヴィエト連邦科学アカデミーの役割はロシア科学アカデミーに引き継がれました。これにより、ロバチェフスキー賞の授与もロシア科学アカデミーによって継続されることになります。ロシア科学アカデミーは引き継ぎ後、1992年、1996年、2000年などにロバチェフスキー賞を授与しました。現在の受賞者リストは、ロシア科学アカデミーの公式ウェブサイトで確認することが可能です。

ロバチェフスキーメダルの設立

ロバチェフスキーの業績を顕彰するもう一つの栄誉として、ロバチェフスキーメダルがあります。このメダルは、1992年のニコライ・ロバチェフスキー生誕200周年という節目に合わせて創設されました。彼の長年の活動拠点であったカザン大学は、この記念すべき年に独自の顕彰を行うことを企画し、連邦政府への働きかけを通じて、カザン大学が授与するロバチェフスキーメダルを設立するに至りました。1991年6月の連邦閣僚会議の決定により誕生したこのメダルは、特に幾何学分野における顕著な貢献を行った研究者を対象としています。メダルは生誕200周年の1992年に最初の授与が行われ、その後も1997年、2002年などに授与が続けられています。

賞を巡る複雑な関係

このように、ロバチェフスキーの功績を称える主要な賞が二つ存在するという状況は、授与機関であるカザン大学と科学アカデミー（ソ連科学アカデミーおよびロシア科学アカデミー）間の歴史的な関係性を反映しています。特に、1997年のロバチェフスキーメダルの選考方法や結果を巡っては、ロシア科学アカデミー側から異議が唱えられたことも報じられており、賞を巡る両機関の関係性が常に円滑ではなかったことが示唆されます。また、それぞれの機関の公式サイトにおける過去の受賞者リストの掲載状況も、互いの賞の歴史や存在を十分に尊重していないかのような状態が見られた時期があったことも指摘されています。

まとめ

ロバチェフスキー賞とロバチェフスキーメダルは、非ユークリッド幾何学という画期的なアイデアを生み出し、数学の発展に多大な貢献を果たしたニコライ・ロバチェフスキーの遺産を現代に伝える重要な顕彰です。長年にわたり、世界の、そしてロシアの優れた数学者たちがこれらの賞を受賞しており、その歴史はロシアにおける数学研究の歩みとも深く結びついています。授与機関が複数に分かれるなど複雑な側面も見られますが、これらの賞がロバチェフスキーの名と共に、今後も数学界の発展に貢献する研究者たちを称え続けていくことが期待されます。

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