カザン大学

カザン大学：ロシアの知の灯台

1804年創設のカザン大学は、ロシア連邦タタールスタン共和国の首都カザンに位置する由緒ある大学です。モスクワ大学に次ぐ歴史を誇り、ヴォルガ川流域とウラル地方における学術の中心地として、長きに渡りその地位を確立してきました。

有機化学発祥の地としても知られるカザン大学は、数々の偉大な科学者、数学者、思想家を輩出しました。その歴史的建造物群と、世界に貢献した研究業績は、ロシアのみならず世界的な学術史において重要な位置を占めています。

輝かしい歴史と伝統

1825年に完成したカザン大学本館は、新古典主義様式を代表する建築物として高く評価されています。その端正なファサードは、160mにも及び、カザンの街並みに風格を与えています。

ニコライ・ロバチェフスキーをはじめ、アレクサンドル・ブートレロフ、ウラジーミル・マルコフニコフ、アレクサンドル・アルブーゾフといった著名な科学者たちがカザン大学で教鞭を執り、多くの優れた研究者を育成しました。また、言語学においては、ボードゥアン・ド・クルトネがカザン言語学派を創設し、後のプラハ言語学派に大きな影響を与えました。

帝政時代には歴史・言語学、物理学、医学、法学の4学部からなる大学でしたが、十月革命後に学部は拡大。シベリアのトムスク大学設立以前は、ロシア帝国で最も東に位置する大学だったため、東洋研究の拠点としての役割も担っていました。大学付属図書館には、東洋学関係の貴重な資料が数多く所蔵されています。

革命と変革、そして現代へ

帝政時代末期には、反体制的な学生運動の中心地ともなったカザン大学。かのウラジーミル・レーニンもこの大学に通学していました。レーニンは学生運動への参加を理由に放校されましたが、後にソ連の指導者となり、大学本館前には、若き日のレーニンの姿を表現した像が建立されています。これは、他の場所にある壮年のレーニン像とは異なる特徴的な像となっています。

2010年には、沿ヴォルガ連邦管区を代表する連邦大学に指定され、「カザン（沿ヴォルガ）連邦大学」として新たな時代を迎えました。

天文台：宇宙への窓

カザン大学には、市街地にあるカザン天文台と、西郊外の森林地帯にあるエンゲルハルト天文台の2つの天文台があります。両天文台は、それぞれ天文遺産に登録されており、2023年にはUNESCOの世界遺産リストにも登録されました。

世界遺産登録基準は、(2) 「人類の価値の重要な交流を示すもの」と(4) 「人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例」です。

国際性と交流

カザン大学には約100カ国から1000人以上の留学生が在籍しており、国際色豊かな環境です。日本からも多くの学生が留学しており、金沢大学、埼玉大学、東京外国語大学などとの交流が活発です。日本語を副専攻として学ぶことができ、日露青年交流センターから日本語教師も派遣されています。

著名な出身者

カザン大学は、長年にわたり、様々な分野で世界的に活躍する人材を輩出しています。その中には、作曲家のミリイ・バラキレフ、音楽学者のステパン・スモレンスキイ、化学者のアレクサンドル・ブートレロフ、ウラジーミル・マルコフニコフ、物理学者のイェフゲニィー・ザヴォイスキー、物理化学者のニコライ・ベケトフ、数学者のニコライ・ロバチェフスキー、教育者のイリヤ・ニコラエヴィチ・ウリヤノフ、歴史家アファナシー・シチャポフなど、多くの著名な名前が挙げられます。小説家のレフ・トルストイ、政治家のウラジーミル・レーニンもカザン大学に在籍していました（いずれも中退）。

カザン大学は、歴史と伝統に裏打ちされた国際的な研究教育機関として、これからも世界の進歩に貢献していくことでしょう。

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