ロバート・クラフト (アメリカンフットボール)

ロバート・ケネス・クラフト

ロバート・ケネス・クラフト（Robert Kenneth Kraft）氏は、1941年6月5日にマサチューセッツ州ブルックラインで生まれたアメリカ合衆国の著名な実業家、そして億万長者です。彼は主にプロスポーツチームのオーナーとしてその名を知られており、ナショナル・フットボール・リーグ（NFL）のニューイングランド・ペイトリオッツと、メジャーリーグサッカー（MLS）のニューイングランド・レボリューション、さらに本拠地であるジレット・スタジアムを所有しています。

経歴

クラフト氏は、ボストンで仕立屋を営んでいた父親の元に生まれました。1956年に高校を卒業後、1960年にはコロンビア大学を卒業しています。その後、ハーバード・ビジネス・スクールに進学し、1965年にMBAを取得しました。学業を終えた後、彼は紙製品関連の事業を立ち上げ、実業家としての道を歩み始めました。

スポーツ界への参入

クラフト氏のスポーツへの情熱は古くから根ざしており、アメリカン・フットボール・リーグ（AFL）時代のボストン・ペイトリオッツ（現在のニューイングランド・ペイトリオッツの前身）からの熱心なファンでした。1971年にチームがシーファー・スタジアム（後にフォックスボロ・スタジアムと改称）に移転してからは、シーズンチケットホルダーとしてチームを応援し続けました。

彼の関心はやがてスタジアム自体へと向かいます。1985年にはフォックスボロ・スタジアム周辺の土地の購入を開始し、1988年にはスタジアム本体を2,500万ドルで取得しました。この買収には、当時スタジアムを使用していたペイトリオッツとのリース契約に関する権利も含まれていました。

ペイトリオッツ買収とチームの変革

スタジアムオーナーとなった後も、クラフト氏のチームへの関わりは深まります。1992年、ペイトリオッツの当時のオーナーが破産し、セントルイスの実業家がチームを取得しました。この新オーナーは、1988年にNFLチームを失っていたセントルイスへペイトリオッツを移転させることを計画します。1994年、そのオーナーはクラフト氏に対し、スタジアムのリース契約の残り分を7,500万ドルで買い取る提案をしましたが、クラフト氏はこの提案を拒否しました。

代わりにクラフト氏は、チーム自体の買収に乗り出します。当時、NFLの中で最も資産価値が低いとされていたペイトリオッツに対し、彼は当時のNFLチームの購入価格としては史上最高額となる1億7,200万ドルを提示し、チームのオーナーとなることに成功しました。1994年2月にNFLによって買収が承認されると、チームには劇的な変化が訪れます。チーム創設以来34年間一度も完売したことがなかったシーズンチケットが、クラフト氏のオーナー就任後初めて完売し、それ以降、すべての公式戦、非公式戦のチケットが完売し続ける人気チームへと変貌しました。

クラフト氏がチームを購入する以前の5年間（1989年-1993年）、ペイトリオッツは19勝61敗と深刻な低迷期にありましたが、彼の経営の下でチームは急速に力をつけ、1994年にはシーズン終盤の7連勝で8年ぶりのプレーオフ進出を果たしました。

黄金時代の到来とスーパーボウル制覇

クラフト氏のリーダーシップのもと、ペイトリオッツはNFL屈指の強豪へと成長します。オーナー就任から3シーズン目の1996年には早くもスーパーボウルに進出しました（第31回）。そして、2000年にビル・ベリチック氏をヘッドコーチに招聘したことが、チームの黄金時代を決定づける契機となりました。

2001年シーズン、ペイトリオッツは第36回スーパーボウルでセントルイス・ラムズを破り、球団史上初のスーパーボウル制覇を成し遂げます。その後も快進撃は続き、2003年シーズンの第38回、2004年シーズンの第39回と立て続けにスーパーボウルを制覇し、4年間で3度の優勝という偉業を達成しました。クラフト氏の自宅で優勝リングが選手やコーチに手渡されるというエピソードも生まれました。彼のオーナーシップの下、ペイトリオッツは20年間で15回のプレーオフ出場、多数の地区優勝、そして7回のスーパーボウル出場と5回の優勝を飾る、NFL史に残る黄金時代を築きました。

スタジアムの建設とその他の事業

フォックスボロ・スタジアムの老朽化に伴い、クラフト氏は新たな本拠地建設を模索しました。ボストンやロードアイランド州、コネチカット州との交渉は難航しましたが、最終的にはフォックスボロ・スタジアムに隣接する自らの土地に新スタジアムを建設することを決断しました。1999年に町議会で計画が承認され、2000年に着工、2002年にジレット・スタジアムとして開場しました。さらに2007年には、スタジアム周辺に大規模な商業施設「ペイトリオット・プレイス」の開発計画を発表しました。

また、クラフト氏は1995年にメジャーリーグサッカーのチーム、ニューイングランド・レボリューションを創設し、1996年からMLSに参入させました。同チームも彼の経営下で成功を収め、2002年から2007年の間に4度MLSカップに進出しています。

スポーツ界内外での影響力

クラフト氏はスポーツ界内外で多岐にわたる活動を行っています。2007年には、ペイトリオッツがNFL史上2度目となるレギュラーシーズン全勝（16勝0敗）を達成しましたが、惜しくもスーパーボウルで敗れ、パーフェクトシーズンを逃しました。2009年には、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世のためにジレット・スタジアムを無償で提供し、慈善イベントを支援しました。2010年にはスポーツビジネスにおける最も影響力のある人物の一人に選ばれています。2011年のNFLの労使交渉においては、オーナー側の代表として新協定締結に尽力し、「フットボールを救った」と高く評価されました。同年、長年連れ添った妻マイラ夫人を亡くすという悲しみを経験しましたが、チームが彼の大きな支えとなりました。

そのほか、2013年にはボストンマラソン爆弾テロ事件の被害者支援のために多額の寄付を行いました。また、ロシアのプーチン大統領にスーパーボウルリングを見せたところ返還されなかったとするエピソードや、所属選手の不祥事への対応、性的指向に関する発言など、様々な出来事が報じられています。2006年にはNCAAからセオドア・ルーズベルト賞を受賞し、2011年にはアメリカ芸術科学アカデミーに推薦されるなど、その功績は広く認められています。

ロバート・クラフト氏は、一実業家からスポーツ界の盟主へと駆け上がり、特にNFLにおけるニューイングランド・ペイトリオッツの歴史を劇的に塗り替えた人物として、その名を刻んでいます。

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