ロバート・W・ホリー

ロバート・ウィリアム・ホリー：遺伝暗号解読への貢献

ロバート・ウィリアム・ホリー (1922年1月28日 - 1993年2月11日) は、20世紀の分子生物学に革命をもたらしたアメリカ合衆国の生化学者です。彼は、遺伝情報がDNAからタンパク質へとどのように伝達されるのかという、生命科学における根源的な謎の解明に大きく貢献しました。特に、タンパク質合成において中心的な役割を果たす運搬RNA（tRNA）の研究で知られています。

ホリーはイリノイ州アーバナで生まれ、イリノイ大学で化学を学んだ後、コーネル大学で博士号を取得しました。第二次世界大戦中は、コーネル大学医学部でペニシリンの化学合成という画期的な研究にも参加しています。この経験は、彼の後の研究生活にも大きな影響を与えたと考えられます。

博士号取得後もコーネル大学に留まり、有機化学の研究を続けました。1955年から1956年のサバティカル休暇では、カリフォルニア工科大学のジェームズ・ボナーと共にRNAの研究に着手。この共同研究が、ホリーの運命を大きく変えることになります。

ホリーは、まず特定のアミノ酸をタンパク質合成の現場に運搬するtRNAの単離に成功しました。特に、アラニンというアミノ酸を運搬するアラニンtRNAに着目し、その構造と配列を決定することに挑みました。当時、RNAの構造解明は非常に困難な課題でしたが、ホリーは2種類のリボヌクレアーゼを用いてtRNAを断片化し、それらの断片を一つずつ解析することで、全体像を明らかにしました。

1964年、ホリーはアラニンtRNAの全塩基配列を解明することに成功しました。これは、RNA分子の配列が初めて解読された画期的な成果でした。この発見は、伝令RNA（mRNA）からタンパク質が合成される過程を分子レベルで説明する上で極めて重要な役割を果たしました。遺伝暗号解読における大きな一歩であり、後の分子生物学の発展に計り知れない影響を与えました。

この偉大な功績により、ホリーは1968年度のノーベル生理学・医学賞をハー・ゴビンド・コラナとマーシャル・ニーレンバーグと共に受賞しました。コラナとニーレンバーグも、それぞれ独自の研究でタンパク質合成のメカニズム解明に貢献した科学者です。ホリーらの研究手法はその後改良され、様々な生物種のtRNAの構造解明に応用され、生命科学の進歩に大きく貢献しました。

1968年以降は、カリフォルニア州ラホヤにあるソーク研究所のフェローとして研究を続けました。ホリーの研究は、遺伝子工学やゲノム研究といった現代の分子生物学の礎を築いたと言えるでしょう。彼の功績は、現在もなお生命科学研究に大きな影響を与え続けています。彼の受賞歴には、ノーベル賞以外にも、アルバート・ラスカー基礎医学研究賞や米国科学アカデミー賞など、数々の栄誉が挙げられます。これらの賞は、彼の研究がいかに高く評価されているかを物語っています。

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