ロリータ (1997年の映画)

ロリータ（1997年の映画）

1997年に製作されたエイドリアン・ライン監督による映画『ロリータ』は、ロシア出身の著名な作家ウラジーミル・ナボコフの同名小説を原作とするドラマ作品です。これは、スタンリー・キューブリックが1962年に一度映画化して以来、35年ぶりの再映画化となりました。主演は名優ジェレミー・アイアンズが務め、禁断の愛に溺れる主人公ハンバート・ハンバートの複雑な心理と、彼が抱く未成年少女への執着を生々しく描き出しています。先行するキューブリック版と比較すると、ライン版はより原作小説に忠実な描写を試みたと評されています。しかし、そのセンセーショナルなテーマゆえに、公開当時は社会的に大きな論争を巻き起こしました。

ストーリー

物語は、イギリスからアメリカへと渡り、ニューハンプシャー州でフランス文学の教授職を得た中年男性ハンバート・ハンバートの視点から描かれます。彼は新たな住まいとして選んだ未亡人、シャルロット・ヘイズの自宅に下宿することになりますが、そこでシャルロットの娘である14歳の少女、ドロレス・ヘイズ、通称ロリータと出会い、たちまちその魅力にとりつかれてしまいます。ハンバートは少年時代に大切な初恋相手を亡くしており、ロリータの中に彼女の面影を強く重ね合わせるのでした。ロリータの傍にいたい一心で、ハンバートは打算的にシャルロットと結婚し、ロリータの義父という立場を手に入れます。彼は巧妙な言葉や態度でロリータに近づき、二人の間には秘密の関係が芽生え始めます。しかし、ある日、ハンバートがロリータへの激しい思慕を綴った日記を偶然読んでしまったシャルロットは、衝撃と怒りに取り乱し、家を飛び出した際に交通事故に遭い、命を落としてしまいます。

突然の出来事により母親を失ったロリータを保護したハンバートは、世間の目を逃れるかのように、彼女と共にアメリカ各地を転々とする放浪の旅に出ます。旅の道中、ロリータは興味本位から、ポルノ映画の製作に関わる怪しげな男、クレア・キルティと知り合います。ロリータの行動に不審な変化を感じ取ったハンバートは、徐々に病的なまでに彼女を監視し、束縛するようになります。しかし、その過剰な執着は、かえってロリータの心をハンバートから遠ざけることになります。やがて、体調不良を訴えて病院に一晩入院することになったロリータは、ハンバートの目を盗んで病院から脱走し、そのまま彼の前から姿を消してしまいます。数年後、ハンバートのもとにロリータから一通の手紙が届きます。彼女はすでに別の男性と結婚し、妊娠しており、経済的に困窮しているという内容でした。ハンバートはいても立ってもいられずロリータのもとへ向かいますが、そこで見たのは、かつての奔放な輝きを失い、荒んだ生活を送るロリータの姿でした。そして、ロリータから彼女の失踪にキルティが深く関わっていたことを知らされたハンバートは、激しい怒りに震え、キルティへの復讐を誓うのでした。

主要キャスト

ハンバート・ハンバート：ジェレミー・アイアンズ
ドロレス・“ロリータ”・ヘイズ：ドミニク・スウェイン
シャルロット・ヘイズ：メラニー・グリフィス
クレア・キルティ：フランク・ランジェラ

制作と公開における論争

本作は1997年に完成しましたが、公開までには困難が伴いました。中年男性と未成年少女の描写が含まれることから、特にアメリカでは小児性愛を助長するという懸念の声が上がり、当初予定されていた劇場公開が見送られる事態となりました。アメリカでの限定的な劇場公開が実現したのは、完成から一年後の1998年になってからです。オーストラリアではさらに公開が遅れ、1999年にR18指定で封切られました。

脚本は製作過程で幾度か書き直されましたが、監督のエイドリアン・ラインは満足せず、最終的には映画脚本を手掛けた経験がなかったジャーナリスト、ステファン・シフに執筆が託されました。制作が進む時期にアメリカで児童ポルノ禁止法が制定されるなど、社会的に児童の保護に対する意識が高まっていたことも、公開の遅延や論争に影響を与えました。このため、アメリカよりも先にヨーロッパ諸国で公開が試みられましたが、イギリス、ドイツ、ベルギーなど、児童の性犯罪が社会問題となっていた国々では、上映に反対する運動も発生しました。

撮影は、アメリカ合衆国内のノースカロライナ州、ルイジアナ州、テキサス州、カリフォルニア州といった様々な場所で行われた他、南フランスでもロケが行われました。ロリータ役を演じたドミニク・スウェインは撮影当時17歳であり、原作小説におけるロリータの設定年齢よりも年上でしたが、三つ編みのおさげ髪やショートパンツといった衣裳、そして歯列矯正器具や飴玉といった小道具を用いることで、意図的に幼い印象が強調されました。

評価

本作に対しては、原作小説の専門家や文学研究者から批判的な意見も聞かれました。原作小説が持つ複数の複雑な次元や、語り手であるハンバートの信頼できない語り（unreliable narrator）といった多層的な要素が、映画ではハンバートの一方的な視点に基づく単調なメロドラマに矮小化されてしまった、という指摘がなされました。

ロリータ (1997年の映画)