ロンドン・ブライトン・アンド・サウス・コースト鉄道

ロンドン・ブライトン・アンド・サウス・コースト鉄道：南イングランドを駆け抜けた1世紀近い歴史

ロンドン・ブライトン・アンド・サウス・コースト鉄道（LB&SCR）は、1846年から1923年までイギリスで活躍した鉄道会社です。ロンドンを起点に、サセックス州の海岸沿いを網羅する三角形状の広大な路線網を誇り、サリー州にも多くの路線を展開していました。LB&SCRは、ロンドンからブライトン、イーストボーン、ボグナー・リージスといった南海岸の保養地、そしてニューヘイブン、ショアハム＝バイ＝シーなどの港町への直通線を運行することで知られています。さらにチチェスター、ホーシャム、イースト・グリンステッドといった内陸の町々や、クロイドン、タンブリッジ・ウェルズなどの主要都市にも路線を伸ばしていました。ロンドン市内では、ロンドン・ブリッジ駅とヴィクトリア駅を起点に、複雑な郊外路線網を構築し、ロンドン中心部を横断する路線も共有していました。

LB&SCRの誕生：複数の鉄道会社の統合

LB&SCRは、1846年7月の法令に基づき設立されました。これは、5つの既存鉄道会社の合併によって実現したものでした。設立メンバーであるロンドン・アンド・クロイドン鉄道とロンドン・アンド・ブライトン鉄道は、合併当時、唯一の独立した鉄道会社でした。他の3社は、合併前にブライトン鉄道に買収されていました。この合併は、投資回収への不満を抱えた株主たちの圧力によって実現したものであり、両鉄道の取締役会は当初反対していました。

設立当時の路線網：三つの主要路線

1846年の設立時、LB&SCRは約274kmの路線網を有していました。これは、大きく分けて三つの主要路線と、それらの支線から構成されていました。ブライトン本線は1841年開業のロンドン・ブリッジ駅発着路線で、一部区間はサウス・イースタン鉄道と路線を共有していました。ウェスト・コーストウェイ線はブライトン～ショアハム間の支線を起源とし、チチェスターまで延伸されていました。そしてイースト・コーストウェイ線は、ブライトンからルイス、セント・レオナーズを経由し、ヘイスティングスへ至る路線でした。これらの路線は、設立後も着実に延伸・拡張されていきました。

サウス・イースタン鉄道との競争と協力

LB&SCRは、開業当初からサウス・イースタン鉄道（SER）との間で、路線網の重複や運行権を巡り、複雑な関係にありました。時には激しく対立しながらも、最終的には互いの勢力圏を明確化し、相互乗り入れなどの協定を結んでいました。

急成長と財政危機

1850年代後半から1860年代にかけて、LB&SCRは路線網を急速に拡大しました。レオ・シュスター会長のもと、ロンドン南部、サセックス、サリー東部に次々と新線を建設、買収しました。しかし、この積極的な経営は、1866年のオーバーエンド・ガーニー銀行破綻を契機とする金融危機により、LB&SCRを財政危機に陥れます。過剰な設備投資と乗客数の減少が重なり、LB&SCRは破産寸前にまで追い込まれました。結果的に、シュスターら経営陣は辞任、サミュエル・レイングが会長に復帰しました。

経営再建と路線拡張の継続

経営再建後は、路線建設は一時的に縮小されたものの、やがて再開されました。特に、ロンドン郊外路線の整備は、LB&SCRの収益性を高める上で大きな役割を果たしました。1880年代後半には、ロンドン郊外に新たな路線を建設し、国内最大の路線網と最高の運賃収入を獲得しました。

技術革新：電化とカリー線

20世紀に入ると、LB&SCRは、路線の電化に着手しました。ロンドン郊外路線の電化は、交通量の増加に大きく貢献しました。また、ブライトン本線の混雑を解消するため、レッドヒル駅を迂回するカリー線の建設も実現しました。これは、複雑な工法を伴う大規模なプロジェクトでした。

第一次世界大戦とニューヘイブン港

第一次世界大戦中は、LB&SCRも政府の管理下に入り、ニューヘイブン港から大陸への軍需物資輸送を担う重要な役割を果たしました。戦争はLB&SCRの業務に大きな変化をもたらし、港湾施設の大幅な拡張や、輸送量の増加への対応が求められました。

合併：サザン鉄道へ

1923年、LB&SCRはロンドン・アンド・サウス・ウェスタン鉄道、サウス・イースタン・アンド・チャタム鉄道とともに、サザン鉄道に合併しました。LB&SCRは、約77年の歴史に幕を閉じました。

LB&SCRの事業：旅客輸送が中心

LB&SCRの事業は、旅客輸送が中心でした。創業当初からロンドンと南海岸を結ぶ都市間輸送が重視され、貨物輸送はそれほど重要視されていませんでした。しかし、鉄道の開通に伴い、沿線各地に新たな需要が生まれ、貨物輸送の量も増加しました。

旅客列車：特急から近郊列車まで

LB&SCRは、ロンドンと南海岸の主要都市を結ぶ特急列車を頻繁に運行していました。19世紀を通じてロンドン - ブライトン間のシーズンチケット収入が会社の財政を支えていました。また、国内初の全車両プルマン客車で構成されたプルマン・リミテッド・エクスプレスも運行されました。さらに、各駅停車や支線へのスリップ・コーチ運行など、多様な旅客サービスを提供していました。20世紀に入り、ロンドン近郊路線の電化が進むとともに、通勤列車の運行も拡大しました。

観光列車と特殊な列車

LB&SCRは、ロンドンから南海岸やサセックスの観光地への観光列車も運行しており、大きな収益源となっていました。夏期には、主要都市から海岸リゾート地への団体専用列車（エクスカーション・トレイン）が多数運行されました。競馬シーズンには、競馬客のための特別列車も運行されました。

貨物列車：産業の発展と共に増加

設立当初は農産物や日用品などの輸送が中心でしたが、1870年代以降、産業の発展に伴い、石油やセメントなどの工業製品の輸送が急増しました。それに伴い、LB&SCRの貨物輸送は重要性を増していきました。

その他事業：港湾とホテル

LB&SCRは、ニューヘイブン港の拡張・運営にも積極的に関与していました。また、ロンドンとブライトンの主要駅にはホテルも併設していました。

事故と事件

LB&SCRの歴史においては、数々の事故や事件も発生しました。中でも、1861年のクレイトン・トンネル列車衝突事故は、イギリス鉄道史上最悪の事故として知られています。この事故は、信号機の誤操作が原因でした。

車両：蒸気機関車から電車まで

LB&SCRは、蒸気機関車を中心に、多様な車両を保有していました。電化区間の拡大に伴い、電車の導入も進みました。客車は、木造車体が多く使用されていました。

LB&SCRの塗装：独特なカラーリング

LB&SCRの機関車や客車は、独特の塗装で知られていました。時代によって塗装は変化しましたが、いずれも上品で華麗なカラーリングが特徴でした。

設備：橋梁、トンネル、駅舎

LB&SCRは、多数の橋梁、トンネル、駅舎などの設備を保有していました。なかには、ウーズ・ヴァレー高架橋やクレイトン・トンネルなど、有名なものも含まれています。また、独自の信号システムも開発していました。

駅：主要駅と地方駅

LB&SCRには、ロンドン・ブリッジ駅、ヴィクトリア駅、ブライトン駅などの主要駅と、多くの地方駅が存在していました。駅舎の多くは、美しいデザインで知られています。

車両工場と操車場

LB&SCRは、ブライトンとランシングに車両工場を有していました。多くの機関車や客車はこの工場で製造されました。また、ロンドンやサセックス各地に多くの操車場を設けていました。

著名な人物

LB&SCRには、多くの優れた技術者や経営者がいました。ウィリアム・ストラウドリー、R・J・ビリントン、D・E・マーシュなどの機関車技師は、数々の優れた機関車を開発しました。また、サミュエル・レイング、レオ・シュスターなどの会長も、LB&SCRの発展に貢献しました。

LB&SCRは、南イングランドの鉄道発展に大きく貢献し、その歴史は鉄道史において重要な位置を占めています。

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