ロン・フラー

ロン・ロヴィウス・フラーの生涯と思想

ロン・ロヴィウス・フラー（Lon Lovius Fuller、1902年6月15日 - 1978年4月8日）は、アメリカの法哲学者であり、その業績は法学界において重要な位置を占めています。彼はテキサス州に生まれ、スタンフォード大学で法学を学んだ後、デューク大学、オレゴン大学、イリノイ大学といった名門校で教鞭を執りました。そして1948年、ロスコー・パウンドの後を受けてハーバード大学の一般法学教授に就任することになります。また、アメリカ政治・法哲学会の会長を務めたことでも知られています。

フラーの思想は、合理主義と非合理主義の調和をしばしばテーマにしていました。彼は自己認識に基づく合理主義を唱え、理性と非合理的要素の双方が相互に作用しながら形成される人間の本性を考察しました。その視点から、合理主義と非合理主義の間に存在する対立を解消しようと試みていました。彼にとって、両者は単なる折衷主義ではなく、互いに補完し合う関係を持つものでした。

自然法思想

フラーは自身の法哲学が自然法に立脚していることを明言しており、特に社会秩序の原理を見出すことに重きを置きました。彼は伝統的な自然法論、特に神学的または形而上学的観点からのものには賛同せず、進化論的観点とも距離を置きました。フラーによる自然法の目指すところは「人々の共同生活を可能にする社会の秩序を支える原理」を発見することであり、その正当性は共同の努力や協働によって得られるべきだと主張しました。このアプローチは、権力の恣意的な運用を批判するものでした。

さらに、彼は法学における事実と価値の統合を提唱し、法律が目指すべき基本的な原理を示しました。彼は法実証主義を批判し、事実と価値を分離することは法の本質を理解する上で不適切であると強調しました。フラーが提唱する手続的自然法と実体的自然法の区別も重要です。前者は法律の内在する道徳性を反映し、後者は人と人とのコミュニケーションを重視した原理に基づくルールです。

ハート=フラー論争

フラーは、法実証主義の重要な擁護者であるハーバート・ハートとの間で「ハート=フラー論争」を展開しました。1958年にハーバード・ロー・レビューにおいて、ナチス政権と法実証主義の関係について議論が始まりました。ハートは法と道徳を明確に分け、「在る法」と「在るべき法」の区別を強調しました。一方、フラーは法には内在する道徳的要素が必要であり、一般性や明瞭性、論理的一貫性などの八つの基準を示しました。これらが満たされなければ、「法」とは認められないと主張しました。

フラーはナチス法の論理的欠陥を指摘し、そこに法制度の存在を否定する理由を見出しました。彼はまた、法の解釈が単なる技術的な作業ではなく、目的志向的なものであると主張し、法制度における道徳の重要性を訴えました。論争自体は決着を見なかったものの、その内容は後の法思想に大きな影響を及ぼしました。

主な著作と影響

フラーの著作には、1940年の『Law in Quest of Itself』、1964年の『The Morality of Law』などがあり、これらの作品を通じて彼の法哲学は広がりを見せました。特に彼の理論は、法と道徳の関係性における新たな視点を提供し、現在でも多くの法学者に影響を与えています。

1978年に彼はこの世を去りましたが、フラーの思想は今もなお法哲学の重要な支柱となっています。法律と道徳の関係についての彼の考察は、現代の法学においても大きな意義を持ち続けています。

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