法実証主義

法実証主義について



法実証主義（ほうじっしょうしゅぎ、英: legal positivism, 独: Rechtspositivismus）は、法学における実証主義の理念を基にした考え方であり、実定法や人定法を法学の対象としています。この立場は、経験的に確認可能な社会的事実に基づいて法を理解し、正義や道徳といった抽象的な概念を排除します。法実証主義はしばしば「実定法主義」や「人定法主義」という言葉で表現され、自然法学の対極に位置付けられています。

歴史的背景



法実証主義の根源は、法哲学の古典的な論争まで遡ることができますが、最初に体系的にこの理論を構築したのは、イギリスの哲学者ジェレミ・ベンサムです。彼はデイヴィッド・ヒュームからの影響を受け、事実と価値の分離を論じました。功利主義の視点から、ベンサムは自然法思想やコモン・ローに批判的でした。この彼の理論は、ジョン・オースティンが提唱した主権者命令説へと引き継がれ、分析法学派の基礎となりました。このため、英米系の法哲学においては法実証主義が強力な流派として存在し続け、法哲学者が自身の立場を法実証主義との比較によって示すことがよくあります。

また、法実証主義の方法論的な側面を、カントから受け継いだのがハンス・ケルゼンです。彼は新カント派に属し、事実と規範の厳格な分離を求める立場を採りました。この結果、ケルゼンによって純粋法学が発展し、事実とは無関係な純粋な規範の体系が探求されるようになりました。

方法論の違い



英米系の法実証主義では、法の存続条件を社会的事実に求め、価値の問題を正義論に回す傾向があります。一方で、大陸系の法実証主義は、法の内的構造において規範性の重要性を強調します。この2つの流派における方法論的アプローチの違いは、法実証主義の理解において重要なポイントとなります。

悪法問題



法実証主義は、法律と倫理的価値を切り離すことから、「悪法も法である」という受け入れがたい考えに至ることが批判されています。これは、悪法であっても効力がある限り遵守しなければならないという問題を指摘したものです。特に、ナチス体制における悪法への適応が問題視され、自然法学派からの激しい批判が浴びせられました。グスタフ・ラートブルフの確信犯論は特に有名です。

ただし、法実証主義自体は法概念と法価値を区別しているだけであり、法価値の完全な否定を主張しているわけではありません。実際、ベンサムやハート、ケルゼンはそれぞれの理論を通じて悪法批判を展開しており、法実証主義者は必ずしも悪法を無視するわけではありません。法実証主義が述べるのは、法の存在条件は社会的事実に基づいているが、それが直ちに道徳的な遵守を意味するわけではないということです。

関連項目



外部リンク


もう一度検索

【記事の利用について】

タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。

【リンクついて】

リンクフリーです。