人間の本性

人間の本性とは何か？

人間の本性（英: human nature）とは、「すべての人間が生まれつき持つ性質」を意味する概念です。古くから哲学の重要なテーマであり、現代では社会生物学や進化心理学など、様々な分野で研究が進められています。

概要

前近代においては、人間の本性は究極的で洗練されたものとされていました。しかし、ダーウィンの進化論以降、人間の本性は固定的なものではなく、可塑的なものであるという考え方が広まりました。現代では、ヘーゲル、マルクス、ニーチェ、サルトルなどの思想家や、社会構築主義者、ポストモダニストによって、人間の本性の存在自体が疑問視されることもあります。

形而上学と倫理学

人間の本性に対する見方は、形而上学や倫理学の立場によって大きく異なります。

自然主義: 人間は完全に自然現象の一部であり、進化のメカニズムによって存在すると考えます。善悪の概念は、社会の期待に沿う行動かどうかで判断されると考えます。
アブラハム宗教: 人間の本性は霊的な存在であり、唯一神によって作られ、神との繋がりを持つと考えます。善悪は神の望みや教えに従っているかどうかで定義されます。
多神教・アニミズム: 人間は他の知性のある存在と同列に扱われ、悪は超自然的な影響や気まぐれによるものと考えられます。
全体論・汎神論: 人間の本性は神や神聖な宇宙の一部と考えられます。

自由意志と決定論

自由意志と決定論の問題は、人間の本性に関する議論の中心的なテーマです。自由意志は、真に自由な選択をする人間の能力を指します。決定論は、人間の選択は内外の圧力によって完全に決定されていると考えます。非両立主義は、決定論と自由意志は両立しないと主張します。

自然主義とスピリチュアリズム

人間の本性の実在性、特に肉体との関係についても議論が分かれています。

自然主義: 人間は霊的な性質を持っておらず、完全に肉体的な存在であると考えます。死後の生命や生まれ変わりを信じません。
観念論: 我々が見ているものは、単に何か崇高な神性の反映であり、人間の精神や魂はその一部であると考えます。
トマス・アクィナス: 人間は動物（物質）と理性（知性ある魂）の統合であり、魂は霊的で不滅であると考えます。肉体と精神は不可分であるとします。

自然状態

自然状態とは、社会的要因が加えられる前の人間の状態を指す概念で、人間性の本質を記述する試みです。

性善説: ロックによれば、自然状態の人間には、自然法則に従いながら行動する完全な自由があります。ペラギウスは、人は原罪によって穢されておらず、善悪を自由に選択できると考えます。
性悪説: ホッブズによれば、自然状態の人間は本質的に「全てに対する全ての闘争」であり、人生は「汚くて、野蛮で、短い」とされます。キリスト教の原罪の概念では、人間はアダムの罪によって穢された堕落した存在とされます。

道徳性

人間の道徳性の起源と性質に関する視点も様々です。

道徳的実在論: 道徳の規準は人間の視点から超越して存在すると考えます。
道徳的相対主義: 道徳の規準は社会構築物であり、その社会以外では意味を持たないと考えます。
道徳絶対主義: 特定の行為が善または悪であり、文脈に依存しないと考えます。
道徳的普遍主義: 一般的に通用する中心的な道徳性があると考える、道徳相対主義と道徳絶対主義の妥協点です。
無道徳主義: 善悪の概念が無意味であると考えます。

人生の意義

自然主義: 人生に究極的な目的はないと考えます。
目的論: 人間の存在に固有の目的があると考えます。
ニヒリズム: いかなる存在も客観的な意味、目的、価値を持たないと考えます。

心理学と生物学

人間の本性を決定する要因や、その可塑性、個人や社会間の変動などについて、心理学や生物学的な視点からも研究が進められています。

タブラ・ラサ: ロックの経験主義の原理は、人間の本性をまっさらな白紙状態と見なしました。しかし、認知科学者や社会生物学者、進化心理学者によって批判されています。
普遍性の議論: 全ての個人、全ての社会に共通する表情の文法や、魅力的な顔の基準、新生児の好みなど、普遍的な特徴が存在することが指摘されています。

影響の大きな思想家の視点

プラトン: 人間を、頭の中に知性のある魂を住まわせ、体を貪欲な獣とする二元論的な存在として捉えました。
アリストテレス: 人間は生まれつき知ることを欲し、結婚し、政治をする動物であるとしました。
ルソー: 人間の本性は固定されておらず、当初は不合理で道徳意識とはかけ離れた本能的な情動としてのみ存在するとしました。
マルクス: 資本主義社会において、人間が本性から引き離されると考え、共産主義社会での本性の発揮を想定しました。
フロイト: 人間の行動は、経済環境だけでなく、父と子の間の闘争など、より根源的な闘争によっても影響を受けると考えました。
* E.O.ウィルソン: 人もまた自然選択の産物であり、人間の本性の解明のために全ての科学が協力すべきであると主張しました。

人間の本性に関する議論は、哲学、科学、宗教など、様々な分野にまたがる複雑なテーマです。今後も、多角的な視点からの研究が深まることが期待されます。

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