ローフス・ミシュ

ローフス・ミシュ（Rochus Misch, 1917年7月29日 - 2013年9月5日）は、ナチス・ドイツの武装親衛隊に所属した元兵士であり、最終階級は親衛隊曹長でした。彼はアドルフ・ヒトラーの側近として、文書の運搬、ボディガード、そして電話交換手といった役割を担い、1945年4月30日のヒトラー自殺時、ベルリンの総統地下壕にいた最後の生存者として知られています。身長は182cmでした。

ミシュは、現在のポーランド領であるオーバーシュレージエン地方のアルト＝シャルコヴィッツで生まれました。第一次世界大戦で父親を亡くし、2歳の時には母親も亡くして孤児となりました。祖父母や叔母に育てられ、当初はペンキ職人として働いていましたが、1937年に武装親衛隊へ志願入隊しました。驚くべきことに、彼はヒトラーの著書『我が闘争』を読んだことはなく、ヒトラーユーゲントにも参加した経験はありませんでした。入隊後、彼はライプシュタンダルテ・SS・アドルフ・ヒトラー（LSSAH）に配属されました。

ポーランド侵攻作戦に参加した際、モドリンの戦いで降伏勧告の特使として派遣された際に、胸部を貫通する重傷を負いました。これが彼の唯一の実戦経験であり、以降は戦闘に参加することはありませんでした。回復後、上官であったヴィルヘルム・モーンケ中隊長は、彼の忠実さと礼儀正しさを評価し、ベルリンの総統官邸に勤務する総統警護隊の欠員補充として推薦しました。これにより、ミシュはヒトラーの側近としての地位を確立しました。彼の最初の任務は、ヒトラーの妹であるパウラに手紙を届けることでした。その後は、司令部、別荘、官邸など、ヒトラーが訪れるあらゆる場所に随行しました。ミシュは、地下壕内で唯一武器の携帯を許された人物でした。

総統地下壕に最後まで残った数少ない人物として、ミシュはヒトラーの護衛兼電話交換手という職務を通じて、全ての文書に目を通す機会を得ました。ベルリン市街戦が激化する中、1945年4月30日にヒトラーとエーファ・ブラウンが自殺した後、ゲッベルスが首相となります。ミシュは、ゲッベルス夫妻やその子供たちとも親しく、マクダ夫人が子供たちを殺害する場面にも居合わせました。

5月1日、ゲッベルスは自決を決意し、ミシュに地下壕から退去するように命じました。ミシュは数日前から脱出の準備を整えており、同日、機械設備工のヨハネス・ヘンチェルと互いに妻宛の手紙を交換した後、地下壕を脱出しました。ミシュが脱出した5分後、ゲッベルス夫妻は自殺したと後に知りました。

逃走中、ミシュはハインツ・リンゲらのグループと合流し、地下鉄で逃れようとしましたが、地上に出たところで捕虜となりました。彼らは、捕虜となっていたドイツ兵たちに捕えられ、ソ連軍の捕虜収容所に送られました。収容所では、ヒトラーのパイロットであったヨハン・バウアと出会い、ミシュは片足を失ったバウアの介護をしました。その後、各地の収容所を転々としました。ヒトラーに近かったという理由から、ルビャンカ刑務所に収容され、取り調べを受けました。スターリンはヒトラーの自殺を信じておらず、ミシュやオットー・ギュンシェ、ヨハン・バウアに「真相」を語るよう強要しました。9年後、ようやくミシュは釈放され、ドイツにいる妻と娘のもとに帰国しました。その後は内装業を営み、1980年代中頃に引退しました。

1970年代からドキュメンタリー映画に出演し始め、1990年代以降はヒトラーや第二次世界大戦に関する番組によく登場しました。2006年には「最後の証人‐ロフス・ミシュ」というドキュメンタリー番組に出演し、同年には回顧録を出版しました。この回顧録は多くの言語に翻訳され、日本でも出版されています。

ミシュは戦後もヒトラーやナチ党に対する一定の親近感を隠さず、ヒトラーを「優しく情け深い上司だった」と評しました。2004年の映画『ヒトラー 〜最期の12日間〜』については、制作陣が自分に取材しなかったことや、作中の乱痴気騒ぎを批判しました。また、ナチスが行った戦争犯罪について懐疑論を唱え、ネオナチを「愛国者」と擁護する発言をしました。ゲッベルスの子供たちの追悼施設を造るべきだと主張したことも、ホロコーストの犠牲者遺族やユダヤ人団体から非難されました。

ミシュの娘であるブリギッタによれば、妻ゲルダはユダヤ人の血を引いていましたが、彼女はそれについて語らず、ミシュも知ることを拒否していたとされています。ミシュは娘とは不和であり、ミシュの孫はフランクフルトのユダヤ人学校で教育を受けていました。2013年9月5日、ベルリンで96歳で亡くなりました。

著作には『ヒトラーの死を見とどけた男 地下壕最後の生き残りの証言』があり、これは彼の視点から第二次世界大戦末期を描いた貴重な証言録となっています。

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