ローマの慈愛 (ルーベンスの絵画)

『ローマの慈愛』、または『キモンとペロ』として知られるこの作品は、フランドルバロックの巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスが1612年頃に制作した油彩画です。もともと板に描かれていましたが、1819年にキャンバスに移し替えられました。この絵画は、ヨーロッパの古い説話「ローマの慈愛」を題材としており、娘ペロが飢餓で死にかけている父親キモンに自分の母乳を与えている様子を描いています。

この作品は、1763年から1796年の間にエカチェリーナ2世によって収集され、現在はサンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館、新エルミタージュの247番ホールに展示されています。

作品の背景

この絵画の主題は、古代ローマの歴史家ウァレリウス・マクシムスの著書『記憶すべき行為と言葉』から引用されています。物語によれば、キモンは罪を犯したために元老院から餓死刑を宣告され、投獄されました。看守の目を盗んで食べ物を差し入れることが困難な状況下で、キモンの娘ペロは、幼い子を持つ母親でありながら、父親を救うために自身の母乳を与えるという行動に出ました。

この物語は、16世紀から18世紀にかけてイタリアとネーデルラントの画家たちにとって非常に魅力的なテーマでした。ルーベンスは、この物語をキリスト教における慈愛の象徴として解釈し、その重要性を強調しています。キリスト教の慈愛は、飢えた者に食べ物を、喉が渇いた者に飲み物を、裸の人に衣服を与え、獄中の人を見舞い、病人を訪ね、貧しい人を埋葬するといった具体的な行動を通じて示されます。

絵画の中では、鎖で壁に繋がれたキモンが藁の上に座っています。その藁には、麦の穂がはっきりと描かれており、これはキリスト教における聖餐式のパンを象徴しています。また、画面左上にはクモの巣とクモが描かれており、これは人間の魂を罪の罠にかけようとする悪魔の象徴として用いられています。

ルーベンスはこの主題を複数回描いていますが、この作品はその中でも最初のものとして知られています。画家の「古典主義」時代（1612年から1614年）の代表的な作品であり、ルネサンス美術に影響を受けた構図の安定性、色彩の堅牢さ、そしてどこか冷たい印象が特徴的です。キモンとペロの姿は古典的な三角形の中に収められていますが、同時に、二人の間には強い感情的な繋がりが感じられ、ルーベンスの個人的な情熱が古典主義的な表現を熱くしていることがわかります。

まとめ

ルーベンスの『ローマの慈愛』は、単なる物語の描写にとどまらず、キリスト教的な慈愛のテーマを深く掘り下げ、人間の感情の複雑さを表現した傑作です。古典主義的な様式でありながら、画家の内なる情熱が感じられるこの作品は、見る者に強い印象を与えます。

参考資料

『大エルミタージュ美術館展　世紀の顔・西欧絵画の400年』、国立新美術館、日本テレビ放送網、読売新聞社、エルミタージュ美術館、2012年刊行

外部リンク

エルミタージュ美術館公式サイト、ピーテル・パウル・ルーベンス『ローマの慈愛』 (英語)
* Web Gallery of Artサイト、ピーテル・パウル・ルーベンス『ローマの慈愛』 (英語)

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