ローマ包囲戦 (紀元前508年)

プルセナスのローマ包囲戦

紀元前508年から507年にかけて、共和政ローマとエトルリアの都市クルシウムの間で繰り広げられた戦いです。この戦いは、共和政ローマが成立した直後に起こり、ローマが独立を守る上で重要な出来事となりました。

背景

紀元前509年、最後のローマ王タルクィニウス・スペルブスが追放され、共和政ローマが誕生しました。この出来事は、エトルリア勢力がラティウム地方での影響力を失うことを意味しました。しかし、ローマはクルシウムからわずか15マイルの距離に位置しており、依然としてエトルリアの脅威に晒されていました。

追放されたタルクィニウスは、自身の故郷であるタルクィニイと、ローマに領土を奪われていたウェイイに支援を求めました。両都市の軍を率いてローマ軍と戦いましたが、シルウァ・アルシアの戦いで両軍は大きな損害を出し、決着はつきませんでした。この戦いでローマ軍を率いた執政官ルキウス・ユニウス・ブルトゥスは戦死しましたが、エトルリア軍の損害がより大きかったため、ローマは勝利を宣言しました。

戦闘

最初の強襲

タルクィニウスがタルクィニイとウェイイからの支援で権力を取り戻すことに失敗すると、紀元前508年にクルシウム王ラルス・プルセナスに支援を求めました。当時クルシウムは、エトルリアの中でも強力な都市であり、プルセナスは「エトルリアの王」とまで称されることもありました。

ローマ元老院はプルセナスの軍が接近していることを知り、市民が敵を恐れてタルクィニウスの復位を認めてしまうことを恐れました。差し迫った籠城戦に備えて、元老院は市民の団結を強めるために様々な対策を講じました。例えば、穀物の輸入や塩の専売制度の導入、低所得者の免税などが実施され、これにより市民は団結して敵に立ち向かうこととなりました。

プルセナスは軍を率いてローマへの攻撃を開始し、クルシウム軍はローマに通じるスブリキウス橋を急襲しました。ローマ軍士官プブリウス・ホラティウス・コクレスは、敵がヤニクルムの丘を占領し、そこから橋を攻撃してくるのを見つけました。ローマ軍守備兵がパニックに陥る中、ホラティウスは橋の破壊を命じ、ティトゥス・ヘルミニウス・アクィリヌスとスプリウス・ラルキウス・ルフスと共に橋を守りました。橋が破壊されると、ホラティウスは川に飛び込み、泳いで渡りきりました。この勇敢な行動により、ローマはエトルリア軍の侵入を防ぐことに成功しました。

包囲戦

最初の強襲が失敗に終わると、プルセナスは戦略を変更し、ローマを包囲しました。ヤニクルムの丘に守備兵を置き、テヴェレ川の河畔に野営地を設けました。河川交通を遮断し、郊外への襲撃も行いました。これにより、ローマ郊外の農民は収穫物を残して城壁内に退避せざるを得なくなりました。

執政官プブリウス・ウァレリウス・プブリコラは、エトルリア軍を欺く作戦を立てました。脱走兵を利用して、翌日に多数のローマ人が羊と共にエスクイリーナ門から出るという情報を流し、エトルリア軍をおびき寄せました。そして、ローマ軍は左右からエトルリア軍を挟み撃ちにしました。この作戦でローマ軍は大きな勝利を収め、エトルリア軍は大きな損害を出しました。

包囲が続くと、ローマは食料不足に陥り始めました。若い貴族ガイウス・ムキウスは、包囲を終わらせるために、敵の野営地に潜入することを決意しました。元老院の許可を得て、剣を隠し持ち野営地に侵入し、プルセナスを暗殺しようとしましたが、間違えて秘書を殺害してしまいました。捕らえられたムキウスは、拷問に屈することなく、右手を火に押し当てて見せました。この勇敢な行動に感銘を受けたプルセナスは、ムキウスを解放し、ローマと講和することにしました。ムキウスは「スカエウォラ（左手）」という名前で知られるようになり、この逸話はローマの英雄譚として語り継がれています。

その後

プルセナスは、ホラティウス・コクレス、ガイウス・ムキウス、そして後に登場するクロエリアといったローマの人々の勇敢な行動に感銘を受け、ローマ攻略を諦めてクルシウムに帰還しました。

ローマの伝説では、プルセナスは平和条約の中で、タルクィニウスの復位を要求しますが、ローマはこれを拒否しました。代わりに、ローマはウェイイの土地を返還することに合意し、人質を交換することで講和が成立しました。

その後、人質の中にいたクロエリアという若い女性が、ローマの乙女たちを率いてエトルリア軍から逃げ出しました。プルセナスは彼女の返還を求めましたが、彼女の勇敢な行動に感銘を受け、人質の半分を解放しました。クロエリアは若い少年たちを解放することを選び、ローマ人は彼女の勇気を称えて像を建てました。

紀元前507年もしくは翌年、プルセナスは再びローマに大使を送り、タルクィニウスの復位を要求しました。しかし、ローマはこれを断固として拒否し、プルセナスはタルクィニウスに他の亡命先を探すよう伝えました。そして、プルセナスはローマの人質を返還し、先にウェイイに返還させた土地をローマに戻しました。

プルセルナスの出発後、元老院は象牙の王座、笏、金の冠、王の王たる服を贈りました。また、プルセルナスの銅像が元老院の近くに建てられました。この戦いは、ローマが独立を守り抜いた歴史的な出来事として、後世に語り継がれています。

この戦いは、共和政ローマの初期における重要な試練であり、ローマの強さと団結を示すものとなりました。プルセナスのローマ包囲戦は、ローマ史における重要な転換点であり、ローマの発展に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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