エスクイリーナ門

エスクイリーナ門は、紀元前6世紀に築かれたとされる、古代ローマの防御施設であるセルウィウス城壁の一部を成す重要な城門です。伝説によれば、この城壁と門はローマ王セルウィウス・トゥッリウスによって建設されたと伝えられています。現在残る遺構は、後に「ガッリエヌスの門」としても知られるようになりました。

所在地とその周辺

この門は、古代ローマ市街地と、その東に位置するエスクイリーノの丘との間に位置し、両区域を結ぶ主要な通過点として機能しました。エスクイリーノの丘は、共和政期にはローマ市民の墓地として利用されていましたが、やがて皇帝たちの時代には、有名なマエケナス庭園をはじめとする壮麗な庭園が築かれた地でもあります。門の南西方向には、後の時代に建てられたネロ帝の黄金宮殿（ドムス・アウレア）やティトゥス浴場、トラヤヌス浴場といった、ローマを代表する巨大な建造物群が位置していました。また、エスクイリーナ門から北側に伸びるセルウィウス城壁は、特に分厚く堅固な防塁として構築されていたことが知られています。エスクイリーナ門は、ローマから東方へ向かう主要な街道であるラビカナ街道とプラエネスティーナ街道の起点となっていました。ただし、これら二つの街道は、さらに外側に築かれたアウレリアヌス城壁を通過するまでは、一つの経路を共有して伸びていました。

歴史的な役割と記述

エスクイリーナ門は、古代ローマの歴史における様々な出来事の舞台として、多くの文献に登場します。古代ローマの都市域を示す神聖な境界線である『ポメリウム』にまつわる慣習の中で、この門が言及されることがあります。ポメリウム内では許されない特定の行為、特に犯罪や処刑が、しばしば門の外で行われた例として、古代の著述家たちがエスクイリーナ門に触れています。例えば、弁論家キケロは、Asinus of Larinum という人物の殺害が門の外で行われたと記し、歴史家タキトゥスは、ある占星術師 Publius Marcius が執政官の命によりエスクイリーナ門外で処刑されたことに言及し、当時の社会規範の一端を示しています。

また、エスクイリーナ門はローマへの重要な出入り口としての機能も強調されています。ティトゥス・リウィウスは、ローマ領を脅かしていたエトルリア人の略奪者を誘い出すために、執政官 Valerius がこの門を利用した巧妙な軍事作戦を記しています。安全のために市内に収容されていた牛を、あえてこの門から外に出させ、それを略奪しようと南下してきたエトルリア軍を門の外で待ち伏せして壊滅させたという話は、この門の戦略的な重要性を示すエピソードです。

儀礼的な側面では、キケロの演説の中に、彼自身が凱旋行列の後、エスクイリーナ門からローマに入城する際に、月桂冠を足で踏みつけたという逸話があり、これはこの門が凱旋式のルートの一部であった可能性を示唆しています。

ローマの内乱期における重要な局面でも、エスクイリーナ門は舞台となりました。プルタルコスは、ルキウス・コルネリウス・スッラが紀元前83年にローマへ軍を進めた際に、この門からの入城を目指したと記しています。スッラは門の安全を確保するために部隊を先行させましたが、ガイウス・マリウス派は市民を募兵し、エスクイリーナ門の上や周辺に陣取らせ、スッラの兵に対して石や瓦を投げつけるなど、激しい抵抗を行ったと伝えられています。

構造の変遷と現状

エスクイリーナ門の物理的な構造も、時代と共に変遷しました。当初は、紀元1世紀頃に造られた単一のアーチを持つ比較的シンプルなものでした。しかし、紀元3世紀、具体的には紀元262年には、エクィテス（騎士階級）の M. Aurelius Victor の後援により、当時の皇帝ガッリエヌスを称える目的で大規模な改築が行われました。これにより、門は最大高さ8.8メートルにも及ぶ、三つのアーチが並ぶ壮麗な構造へと姿を変えたと記録されています。

しかし、現在の姿は、この三連アーチの一部のみが現存しているものです。考古学的な調査により、かつて両脇にアーチが存在したことを示す基礎構造が確認されていますが、実際に地上に残っているのは、当初の単一アーチ部分と考えられています。この現存するアーチは、紀元3世紀の改築を記念して「ガッリエヌスの門（Arco di Gallieno）」とも呼ばれています。

エスクイリーナ門は、その起源から構造の変化、そして多くの歴史的な出来事における役割を通じて、古代ローマの都市の発展と変遷を見守ってきた貴重な遺構と言えるでしょう。

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